鳥 来 ぬ か　　 中坪　達哉 寒気凝る座敷に碁盤将棋盤鰤食うて鈍感力といふ力ドローンの影が撫で行く雪の原春めくや有るほどの髪刈りに出て　　　なるべく車に乗らず料峭のペダル漕ぎ出す登り坂暖かや濡れては乾く鞄提げ春愁を払は […]

残 る 紅 葉　　 中坪　達哉 新旧のこけしに冬日とどきけり竹馬に乗せたる足の第一歩今日も雪払ひて残る紅葉かなオリオンを肩に担ぐも今日の幸　　初立山嶺々へ雪を踏みつつ御慶かなひと時を走る真似ごと初山河三日はや少し歩けば午 […]

　翁　の　忌 中坪　達哉 雨戸繰れば胸にとまりぬ冬の蜂明日あたり枯枝へ飛ぶ山茶花か痩身に暖房甘く匂ひ来る雑踏を突つ切る冬も汗かいて　　　正座は心落ち着きて一日に正座いくたび翁の忌戸口へと懸け大根を巡り行くすぐ逃げる柚子を […]

　冬　薔　薇 中坪　達哉 枯枝を打つや擦り傷幾らかは枝打の仕舞の一打響きけり寒波まだ遠し日溜りに長居して見るほどに月光仮面頰被目を凝らす闇に冬薔薇浮かぶまで　　　その音を聞きたく舗道打つ音や縄とび二重跳び冬菊の全き黄もて […]

　庭　の　匂　ひ 中坪　達哉 熊よりも天狗出さうや鳥兜ゐのししのぬた場や秋の日を溜めて剃刀で払ふ秋の蚊日に紛れとんばうのけふも貼り付く窓辺かな秋日傘とて渡されし女傘　　幾度訪れても二月堂裏へと至る爽やかに厚物の二ひやく三 […]

　野　の　錦　　 中坪　達哉 疲れにも似たる安らぎ雁の頃今日あたりと見遣れば塀に尉鶲立山よりの秋風羊羹厚く切り登り下り慣れたる脚に威銃　とある寺院花頭窓へと押し寄せて野の錦　編集委員昼食後の散策秋雨を何の屯か五六人木刀の […]

　穴 ま ど ひ　 中坪　達哉 ひあふぎの庭へ下りよと今日も咲く透き通る声変はらずに生身魂雀らが潜るや芙蓉の花盛り追分の旧字のしるべ鳥兜独りには独りの深さ森の秋　　　岐阜城秋風の匂ふ天守でありにけり磐石の庭も古りたり穴ま […]

　陶　枕　 中坪　達哉 陶枕にそろそろ夜風とどくころ草叢を打つ雨音も夏のもの朝顔の葉裏生き生き戸締りす炎昼へ心の中で切り火打つ折り返す五千五百歩雲の峰氷片を浴びて待ちゐる掻き氷ベンチ古り蛇の気配のなしとせず築山を匂ひ立た […]

　空　を　広　げ　て 中坪　達哉 立山のいよよ迫りてあいの風中庭をもう来る時分黒揚羽月涼し時の流るる音を聞き　　　ＫＮＢラジオスタジオ曇りなきアクリル板に声涼し　　　車庫より巣立つ五羽の燕文机を立つやすなはち燕見に自転車 […]

　朴　の　花 中坪　達哉 植ゑ終へし田の匂ふなり夕厨衣更へ散歩の距離も延ばしけり夏帽子被り直して踏み出しぬ雲目掛け走り出したる夏野かなペダル折らんばかりに上る雲の峰　　車庫に巣づくり一台分空けて今日より燕小屋黄楊の木が一 […]