<草紙76> 「朝顔の頑張り」(富南辛夷句会便り)
「朝顔も熱中症か」と驚いて〈草紙50〉に書いたのは、令和5年8月。翌年は、朝顔のプランターを午後からの日当たりが少なくなる家影に置き、猛暑日は葦簀を掛けて対処した。2年目の今年は、もう一歩対策を進めて、水を保持しやすいように大きいプランターに変えて土をたっぷり入れた。また、朝顔の変化に気づきやすい場所を探して、窓からよく見える生垣に朝顔の蔓を這わすことにした。さらに葦簀を生垣に立掛けたので、広げたり閉じたりと日差しの調整が簡単にできた。6月21日、早くも猛暑日となり、雨も降らない日が続いたが、朝夕の水遣りで朝顔は頑張ってくれた。
ある朝、妻の声がした。「朝顔、咲いた、咲いた。随分咲いたねぇ」と。およそ70個だ。次の日から、花数が増えてきた。9月半ばの今でも100個を超えている。朝顔、頑張れ。我が家の朝は、立山連峰を背に涼やかに咲いている朝顔から始まる。
さて、今もなお猛暑日が続く中の句会だが、季節はいよいよ秋へ向かい始めたようで、朝顔、茗荷の花、虫、蟋蟀、風の盆、秋刀魚、蜻蛉、ばつた、稲刈と、皆が秋の季語で詠んでいた。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
明月のとどかぬ虫の高音かな
蜻蛉や糸瓜をさらす水広し
土の上に土の色なるばつたかな
康裕
<草紙75> 「朝の音」(富南辛夷句会便り)
朝の6時に寺の鐘が鳴ると山里が次第に目覚めていく。私は庭の草むしりを始める。静けさの中に、鉄路の音、通勤車の音などがだんだん増えてくる。7時には、村のチャイムで「浜辺の歌」の曲が流れる。私は心の中で歌詞を口遊む。今朝も「あした浜辺を さまよえば 昔のことぞ しのばるる 風の音よ~ 雲のさまよ~」と。「雲!」、思わず大日岳を見上げた。「秋の雲だ」。8月27日、昨日までの峰雲ではなかった。朝の草むしりも悪くない。
朝六つの鐘に始むる草むしり 康裕
さて、今もなお猛暑日が続く中の句会では、炎天、極暑などの季語が多く、暑さ疲れが見えたが、さすがに俳人の感性だ。法師蝉、新涼、葛の花、秋の蜂など、ほんの少しの秋への変化をとらえていた。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
新涼や豆腐驚く唐辛子
葛の花龍女が渕に径古りぬ
かへり来て顔みな同じ秋の蜂
康裕
<草紙74> 「有峰『俳句に親しむ会』に参加」(富南辛夷句会便り)
6月29日、今年の吟行地は有峰ダム湖に突き出ている砥谷半島。森の中の遊歩道は、水楢や山毛欅の木洩れ日が心地よく、蝦夷春蝉が今を盛りと鳴いていた。もちろんダム湖をかこむ山々の緑は言うまでもなくまぶしい。
先の富南辛夷句会で中坪主宰が、吟行に臨む心がけとして「心を無にし、五感を信じて自然(物)を観察することです。そうすると自然の方から語りかけてきます。句作を急ぐと表面だけしか見えません」と教えて下さった。これまでも、現地で、五感に触れたものを詠んできたつもりだったが、今一つしっくりこなかった。自然の方からの語りかけを待ちきれなかったのだろう。そこで、今回は「五感を信じ、句作を急がずに」と心に決め、遊歩道を進み、立ち休み、山毛欅大樹に顔を寄せていると、陰から黒揚羽がふっと現れた。黒揚羽が授けてくれた一句。
立ち休む山毛欅の陰より黒揚羽 康裕
さて、句会は、茂り、蛇、蜥蜴、虹、半夏生、百合、合歓の花、日傘、青葡萄、ハンカチ―フ、夏休、極暑など、夏の暮らしの身近な季語が並んだ。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
帰らめと目覚むる夜半の百合匂ふ
神通の濁りうづまき合歓垂るる
西空にうつるものなき大暑かな
康裕
※富山県農林水産公社主催 有峰『俳句に親しむ会』
講師 富山県俳句連盟会長 中坪 達哉