<草紙71>「常願寺川の大転石」(富南辛夷句会便り)
小学生のころ、夏休みには常願寺川の下流の浅瀬でよく遊んでいた。そこには下流にもかかわらず大きな岩があった。初夏の青空に誘われてそこへ向かってみると、大人の目にもやはり大きかった。高さ3メートル近くもある岩で、安政5年の「飛越地震」による土石流で運ばれてきたという。今では「大転石」と呼ばれ、下流域には40数個もあるらしい。
眺めているうちに、その岩の生い立ちを知りたくなって、写真を撮って富山市科学博物館を訪ねた。同博物館には「質問コーナー」があり、館員の方がていねいに答えて下さる。岩の写真を見て「茶色であり、水平方向に層のようなものが見えるので、溶結凝灰岩でしょう。火山が噴火し、流れ出た溶岩が冷えて固まったものです。実物を見ないと判定できませんが、同色の小石を持参されるのも良いかと思います。」と説明して下さった。天候を見つつ、再度「大転石」に会いに行くつもりだ。
さて、5月の句会だが、雉、燕、独活、蕨、酸葉、蛙、そして牡丹、蕗、麦、代田、田植などの自然を相手にした多様な季語があり、山里に暮らす富南辛夷句会の皆さんなればこその句であると思う。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
奥山の径を横ぎる蕨とり
啼き立てて暁近き蛙かな
牡丹咲く氷見の郡の潮ぐもり
康裕
<草紙70>「 紅椿 」(富南辛夷句会便り)
4月に入ると存在感を増してくるのが紅椿だ。はち切れんばかりの蕾を見るとわくわくとした気持ちになる。そして、花びらがひとひらずつ捲るように開き出すと、鳥たちが蜜を吸いにやってくるのが楽しい。花びらに枯れ色が混ざるほどに咲き切ってぽとりと落ちるものもあれば、これから咲くと言う時に落ちるものもある。それらの落椿を熊手や竹箒で集め、手箕(てみ)に掃き入れるのだが、そのずっしりとした重さは紅椿の命の証だと感じることができる。
さて、4月の句会だが、季語は春祭、春寒、蕗の薹、水温む、春田、田打、楤の芽、椿、四月馬鹿、日永、春愁、草餅、木瓜の花、春暁、花、桜、菜の花、春菜、春の宵などの三春にわたり、正に春を楽しみ惜しむ句会となった。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
谷々に乗鞍見えて春祭
月出でて一枚の春田輝けり
草餅の色濃くかたく夜はふけぬ
康裕
<草紙69>「 雪囲とる 」(富南辛夷句会便り)
3月に入り、県外にいる孫からメールが来た。「学校も春休みになったから、雪囲を外すのを手伝いに行きます。」と、なんともありがたい言葉。孫は幼いころから色々な手伝いをしてくれたが、はや成人となり、ますます頼もしい存在になっている。
初日は、小雨模様。先ず、玄関横の段柘植(だんつげ)から取りかかった。高さが3mあまりの段柘植をすっぽりと覆うように丸太10本で円錐形に組んだ雪囲だ。私は脚立に乗って雪囲の頂部の鉄線を切り、丸太を順番に解いていく。丸太は直径が5~6㎝、長さが4mもあるので結構重たいのだが、若い孫は軽々と受け取り地面に寝かせていく。雪囲いから解放された段柘植は小雨に光り清々しい姿を見せていた。
2日目は、立山連峰の稜線がくっきりと見えるほどの好天で、家の敷地に沿った背丈ほどの満天星躑躅(ドウダンツツジ)の垣根の雪囲をとることにした。青竹を水平にして垣根の表側と裏側の2方面から挟み、所々にある杭に青竹を荒縄で締め付けたものだ。垣根の端から端まで、しかも青竹は2段組にしてあるので、縄を切り解いていくにも時間がかかる。私と孫は垣根を挟んで向かい合って作業を始めたが、孫の手は素早く、私が遅れをとることも。こうして抑えを解かれたツツジの枝には早くもほんのりと紅い花芽がたくさん付いていた。2日間の作業を終えれば「次の雪囲の時は、男結びを教えてよ」と早くも孫はやる気満々だ。
さて、3月の句会だが、雪解、雪代、冴返る、梅、二月尽、春の雪、春の水、雪囲とる、彼岸、田打、木の芽、椿、卒業、杉の花、亀鳴く、蛍烏賊、春の暮、チューリップ、フリージア、春風などの春を読んだ句が多く、華やいだ句会となった。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
春の雪片々として人に着く
春水の来る音高き寝覚かな
白きあり紅きあり君が庭椿
康裕