<草紙35>「 主宰の教え『生活そのものが俳句』」(富南辛夷句会便り) 

 「富南辛夷句会の皆さんとお会いするのは、1年ぶりですが、ここに来るまでに出会った入道雲、栗の花が印象的でした。」と中坪主宰の挨拶をいただいて、句会が始まった。久しぶりに句会員が全員揃い、その投句全句に渡り、主宰から指導を受けた。主宰から「一日の生活そのものが俳句で、その一コマを切り取れば良い。俳句を作ろうと思って、構えると抽象的な言葉になってしまい、読み手には思いが伝わらなくなってしまうこと」、また「珍しいもの、綺麗なものを見ると、つい説明したくなり、季語の説明に終わってしまうこと」などの注意すべきポイントを教わった。
 さて、投句の季語は、雪形、夏近し、蝮、昼寝覚、明易し、蛙、風薫る、汗、草むしりなど。中でも、裏山に入るのが日課めいた方の銀竜草、金蘭、青山椒の句や、登山が好きな方の牛嶽、山毛欅若葉を詠んだ句は、野趣溢れる句で印象的だった。

 投句のあった季語に合わせて前田普羅の句を一句。

  啼き立てて暁近き蛙かな (『普羅句集下巻』 所収)

康裕  

  


<草紙34>「山藤」(富南辛夷句会便り)

 立山山麓集落は、5月の連休のころ、至る所に山藤が垂れる。句会活動拠点の上滝から常願寺川を遡る道筋には山藤が多い。中でも「岡田」集落入口にある大きな杉に、蔓を存分に伸ばして咲き誇る山藤は見事だ。集落の案内標識にも似た存在だ。この山藤を毎年楽しみにしていたのが、句会仲間の故山元飛鳥氏だ。

   大杉の天辺どこもここも藤    飛 鳥

 突然の逝去で残念なことであったが、今年も山藤は見事だったと伝えたい。この山藤が咲く頃、集落では、畑に種蒔きや野菜苗を植え付ける。最近では猿よけネットを張るのも大切な仕事だ。飛鳥氏の好きだった山里は、自然も人々も動き出すのである。

 さて、5月の句会(5/27)だが、季語は、雀の子、木の根明く、たんぽぽ、雉、種蒔、山独活、囀、蛙、朝焼、冷奴、帰省など。特に、たんぽぽや雉の句が複数あった。いずれも休耕田であるが故の情景であり、詩情ばかりに浸れないものがあるが、休耕田に咲き溢れるたんぽぽや、休耕田を住み処とする雉の鳴き声にすっかり馴染んだ句など、明るい句だったのが嬉しかった。

 投句のあった季語に合わせて前田普羅の句を一句。

   雉子鳴くや大いなる空明けんとす   (古春亭句集所収)   

康裕


<草紙33>「古本が好き」 

 『俳句文学全集 高浜虚子編』を開いている。奥付に著作者:高浜虚子 発行所:「第一書房」(昭和12年9月5日発行 予約価1円50銭)とある。いわゆる古本である。これは友人から譲ってもらったものだ。

 この春は彼岸になっても肌寒い日が続いていたが、「元気ですか。俳句の本をいくつか送ろうと思って……」と、突然東京の友人から電話があった。驚く私に、彼は懐かしい声で「今、能生の家に来ているのだけれど、住所は富山のどこだっけ?」と続けた。「それでは、明日そっちに行く」と私は即答。翌日は、久しぶりに県境を越えて車を走らせた。彼は、骨董(古美術)収集が趣味。東京の自宅が収集品で手狭となり、糸魚川近くの能生に別荘を購入し、収集品を収納している。私を俳人として憶えていてくれて、骨董品収集に併せて俳句の本も収集してくれていたのが、嬉しい。

 私は、自分でも数年前から通販で古本を購入するようになった。安価であり、なおかつ限定出版のため部数が少ない句集でも古本なら手に入れやすい。そして何より古本屋に出かけなくとも、二、三日後には手元に届く。一旦、この便利さを味わったら、読みたいと思った句集や俳句関係図書は、ついパソコンで購入してしまう。古本のシミやヤケ、匂いも気にならない。とにかく早く読みたいのだ。

 では『俳句文学全集 高浜虚子編』の、今読んでいる5月の章から二句。

   雨雲の下りては包む牡丹かな(大正7年)

   人垣のどよみ撓むや荒神輿(大正12年)

康裕