<草紙69>「 雪囲とる 」(富南辛夷句会便り)

 3月に入り、県外にいる孫からメールが来た。「学校も春休みになったから、雪囲を外すのを手伝いに行きます。」と、なんともありがたい言葉。孫は幼いころから色々な手伝いをしてくれたが、はや成人となり、ますます頼もしい存在になっている。

 初日は、小雨模様。先ず、玄関横の段柘植(だんつげ)から取りかかった。高さが3mあまりの段柘植をすっぽりと覆うように丸太10本で円錐形に組んだ雪囲だ。私は脚立に乗って雪囲の頂部の鉄線を切り、丸太を順番に解いていく。丸太は直径が5~6㎝、長さが4mもあるので結構重たいのだが、若い孫は軽々と受け取り地面に寝かせていく。雪囲いから解放された段柘植は小雨に光り清々しい姿を見せていた。

 2日目は、立山連峰の稜線がくっきりと見えるほどの好天で、家の敷地に沿った背丈ほどの満天星躑躅(ドウダンツツジ)の垣根の雪囲をとることにした。青竹を水平にして垣根の表側と裏側の2方面から挟み、所々にある杭に青竹を荒縄で締め付けたものだ。垣根の端から端まで、しかも青竹は2段組にしてあるので、縄を切り解いていくにも時間がかかる。私と孫は垣根を挟んで向かい合って作業を始めたが、孫の手は素早く、私が遅れをとることも。こうして抑えを解かれたツツジの枝には早くもほんのりと紅い花芽がたくさん付いていた。2日間の作業を終えれば「次の雪囲の時は、男結びを教えてよ」と早くも孫はやる気満々だ。

 さて、3月の句会だが、雪解、雪代、冴返る、梅、二月尽、春の雪、春の水、雪囲とる、彼岸、田打、木の芽、椿、卒業、杉の花、亀鳴く、蛍烏賊、春の暮、チューリップ、フリージア、春風などの春を読んだ句が多く、華やいだ句会となった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  春の雪片々として人に着く

  春水の来る音高き寝覚かな

  白きあり紅きあり君が庭椿

                       康裕


<草紙68>「 厨の窓 」(富南辛夷句会便り)

 我が家のリフォームの折に、厨の東の窓を思い切り大きくした。立山連峰からの日の出を四季にわたって見たかったからだ。日の昇る場所は日ごとにと言ってよいほど稜線を動く。今はまだ浄土山あたりだが、これから春、夏と剱岳方面へ日々動いていくのがとても楽しみだ。また先日は大きな夕日が山肌の雪に反射して、剱岳や大日岳を茜色に染めた。そしてその茜色が刻々と夕闇の色に移っていくのを飽くことなく眺め続けることができた。

 こればかりではない。思わぬ楽しみも加わった。野鳥たちが窓辺の榊の実を啄みに来るのだが、厨の窓はミラーガラス。鳥たちには私が見えないが、私は心置きなく鳥たちを見ることができる。先日は花鶏(あとり)が来て、喉の奥まで見せて鳴いてくれた。厨の窓は、私の期待以上に、私に喜びをもたらしてくれた。

 さて、2月の句会だが、立春の後、春の雪とは思えぬ大雪が降ったからだろう、冬野、雪、雪卸、焼芋、寒波、除雪車、雪掻などの冬の季語の句が半数を占めたが、二月、建国記念の日、雪解、雪崩、猫柳などの早春を詠んだ句も出句され、明るい句会となった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  雪卸し能登見ゆるまで上りけり

  苔つけし松横たはる二月かな

  国二つ呼びかひ落す雪崩かな

                       康裕


<草紙67>「 寒鰤 」(富南辛夷句会便り)

 富山県氷見漁港では、令和6年11月20日に「ひみ寒ぶり」宣言が出され、年明けの1月20日にシーズン終了となった。富山湾で水揚げされ氷見漁港で競られた7キロ以上の鰤を「ひみ寒ぶり」というが、今シーズンは69,351本に達し、過去2番目の記録になったという。昨年1月の能登半島地震の影響で、紅ズワイガニ、白エビなどの不漁が起き、漁業者の不安を大きくしていただけに朗報だ。

 我が家の正月は、お節に加えて、寒鰤の刺身、照り焼きなどが定番だが、今年は、県外に住む釣り好きの孫の提案で、鰤しゃぶを囲むことになった。大物は捌けないので、魚屋で5キロ程度の半身を大きく捌いてもらい、夕刻には孫の包丁さばきによる鰤の薄切りが大皿に並んだ。子供とは思えぬ出来あがりに驚いた。帰省のたびに見せてくれる頼もしい姿はとても眩しく、嬉しい限りである。

 さて、初句会の季語だが、冬の星、冬の月、冬の虹、雪、寒鰤に始まり、正月ならではの初詣、箸紙、三日、正月、初旅、読初、弓始、双六、七種、女正月などに続いて、寒の内、寒晴などを詠んだ句が出され、華やいだ句会となった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  オリオンの下の過失はあまりに小

  農具市深雪を踏みて固めけり

  七草や雀烏の枝うつり

                       康裕