<草紙58>「『辛夷』創刊百周年記念号を手にして 」(富南辛夷句会便り)

 今日(3月29日)の句会では、届いたばかりの「『辛夷』創刊百周年記念号」を手にして、その感想を皆さんからいただいた。100年の歴史の重みと、その一員である誇り、そして特に皆さんの注目を集めたのは、『辛夷』プラチナ会員紹介のページだ。プラチナ会員は、30年以上在籍かつ継続出句者である。その23名の方々の顔写真や代表句が掲載されている。句会の皆さんは、「30年以上投句を継続されていることに敬意を払います。この記事を励みとして投句を継続したいと思います。」と自身の齢や気力・体力を思いつつ、大いなる希望と決意を持たれたようである。今日の句会では、それぞれの感想を話し、聞いて、相互に「響き合う」ものがあったように思う。記念号なればこそだ。嬉しい限りである。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。  

  弥陀ヶ原漾(ただよ)ふばかり春の雪

  雛の日に二夜おくれて望の月 

  大空に春の月あり樹々の影

康裕


<草紙57>「 雪雫 」(富南辛夷句会便り)

 雪を被いた木々の枝先や葉先から雫が落ちる、雪雫だ。小鳥たちが雪雫の光る枝々を飛び交い、庭がはなやぐ。私は、椿や松の雪雫が好きだ。椿の枝先で少しずつ膨らんでいく水玉は、氷のように透きとおり、水色にも見える。そして、その雫は葉に、石に弾み、春の到来を喜ぶ童の声のようにも聞こえる。一方、松の雫は静かだ。松の細い葉先に宿った本当に小さな水玉のきらめきは、星のようにも見える。いよいよ春だ。

 さて、今月の句会は、アイゼン、正月、豆撒、梅、薄氷、春、春寒、雪解雫、春一番、野遊と、冬と春が混ざり合っていた。次の句会は、3月29日だが、発刊の時を迎えた『辛夷』創刊百周年記念号を手にして盛り上がることだろう。待ち遠しい。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  大空に弥陀ヶ原あり春曇

  梅白く藪にかくるる隣かな

  春寒し人熊笹の中を行く

康裕


<草紙56>「 能登半島地震 」(富南辛夷句会便り)

 これまでに経験のない地震の揺れに驚いた。元日の夕方、孫たちと富山市内の玩具店に小物を買いに出かけていた時のこと。ぶらりと店内を回っていると、突然、足元が揺れ、壁が揺れ、陳列棚が波を打つように見えた。ともかく、孫たちと駐車場へ。そこへスマホが鳴り響いた。「緊急地震速報 石川県能登半島に地震」。自宅と連絡を取り、帰宅。能登では震度7、富山も震度5強の大地震。これがその時のあらましだ。刻々と、石川・富山の両県にわたる被害状況が報道され、その地に住む知人を思い、かつて訪れた美しい能登の惨状に心が痛む。

 今月の新年の句会は、顔を合わせば先ず互いの無事を確かめる言葉から始まった。投句は、やはり能登半島地震の句だ。夕食の準備をしていた方、町で買い物中の方、思わず幼子を抱きしめた方、ともかくと避難された方、急ぎ支援活動に携わられた方々の句だ。これらの句は、俳人の生活の記録として、そして復旧・復興への祈りとして、俳誌『辛夷』に残っていくだろう。普羅の愛した能登の自然と人々への思いを込めて。

                            康裕