<草紙78> 「熊出没」

 私と熊との出会いは有峰。薬師岳の麓にある標高約1000mの高原盆地だ。数年前の秋、有峰湖周辺を吟行する「有峰俳句の会」に参加し、熊棚や熊の糞を見、子熊が木を降りてくるのを初めて見た。その時に作った3句。

  見えるはずの薬師岳の肩に熊棚は

  秋しぐれ百歩歩けば熊の糞

  やや寒の大樹を降りる熊の爪 

 その頃の有峰は団栗や山毛欅の実が多く、「熊鈴を鳴らしながら遊歩道を歩けば、熊が察知してくれ、熊が身を隠す」という状況であり、正しく警戒すれば、熊との共生が可能だと思っていた。

 が、今年は団栗や山毛欅の実が凶作で、私が住んでいる地域でも、連日、熊出没情報を聞く。緊急対策として、柿の木の伐採が推奨されているが、子供のころ「学校から帰ってきたら甘いものが食べられるように」と父母と一緒に柿の木を植えたことを思うと、いきなり伐採とはいかない心情だ。せめてと思い、柿捥ぎに精をだしている。

  繰りかへす市の広報は柿捥げと

  孫ら来て柿を捥がんと棹三本

康裕


<草紙77> 「晩秋」(富南辛夷句会便り)

 10年ほど前から、体育の日(スポーツの日)を目安として冬囲の準備にとりかかっている。先ずは、庭師が入り、庭木の枝払いをする。庭木がすっきりとした後で、私が雪吊りや生垣の雪囲を行うのだ。先日、我が家の物干し場に、鵙が姿を見せた。はや晩秋だ。「立山に初冠雪」のニュースを聞く日も近くなってきた。夏が終わったばかりの気がするが、頭を切り替えて冬への備えをスピードアップしていかなくては。今年も頑張ろう。

 さて、句会だが、秋耕、秋の色、秋麗、仲秋、虫、コスモス、狗尾草、木犀、秋の雲、栗、穭田と仲秋から晩秋にかけての作品が多かった。また、熊の出没を詠みこんだ作品もみられた。今年は、句会のある大山会館や小学校の近く、住宅地にも出没し、子供達の学校生活に影響が出ているという。警戒せねばと思う。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

   虫なくや我と湯を呑む影法師 

   月代をはなれ流るる秋の雲

   美しき栗鼠の歯形や一つ栗

康裕


<草紙76> 「朝顔の頑張り」(富南辛夷句会便り)

 「朝顔も熱中症か」と驚いて〈草紙50〉に書いたのは、令和5年8月。翌年は、朝顔のプランターを午後からの日当たりが少なくなる家影に置き、猛暑日は葦簀を掛けて対処した。2年目の今年は、もう一歩対策を進めて、水を保持しやすいように大きいプランターに変えて土をたっぷり入れた。また、朝顔の変化に気づきやすい場所を探して、窓からよく見える生垣に朝顔の蔓を這わすことにした。さらに葦簀を生垣に立掛けたので、広げたり閉じたりと日差しの調整が簡単にできた。6月21日、早くも猛暑日となり、雨も降らない日が続いたが、朝夕の水遣りで朝顔は頑張ってくれた。

 ある朝、妻の声がした。「朝顔、咲いた、咲いた。随分咲いたねぇ」と。およそ70個だ。次の日から、花数が増えてきた。9月半ばの今でも100個を超えている。朝顔、頑張れ。我が家の朝は、立山連峰を背に涼やかに咲いている朝顔から始まる。

 さて、今もなお猛暑日が続く中の句会だが、季節はいよいよ秋へ向かい始めたようで、朝顔、茗荷の花、虫、蟋蟀、風の盆、秋刀魚、蜻蛉、ばつた、稲刈と、皆が秋の季語で詠んでいた。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

   明月のとどかぬ虫の高音かな 

   蜻蛉や糸瓜をさらす水広し

   土の上に土の色なるばつたかな

康裕