<草紙45>「福井への旅」(富南辛夷句会便り)

 3月初旬、福井へ向かって呉羽山を列車で通り抜けた。久しぶりに見る車窓からの田畑は殆ど枯れ色だが、点在する麦畑が青々とまぶしかった。この旅は、昨年9月に発刊した『前田普羅 季語別句集』の編集用入力プログラムを作成してくれた友人に会うためだ。コロナ禍でもあり、友人とはなかなか会うこともできなかったが、メールでサポートしてくれた。嬉しく有り難かった。この季語別句集が完成して、真っ先に手渡すと、「お疲れさまでした。季語入力を手伝って、自分も勉強になりました。」と言葉をもらった。発刊までの4年の歳月が思い出され、とても嬉しかった。居酒屋で喜びを分かち合った乾杯のビールは殊のほか美味かった。

 さて、今月の投句の季語は、3月に入り好天気が続いたこともあって、春暁、春寒、春めく、暖か、雪解、雪崩、春の風、梅、薄氷、雛祭、鞦韆(しゅうせん)などの春の季語が殆どだった。中でも、コロナ禍の落ち着きを反映してか、春の旅、春の山行きの句が見られたのが嬉しい。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  ふらここを掛けて遊ぶや神の森

  紫に鳶の影ゆき雪解風

  四方の山雪崩のあとを天辺より

康裕

                             

                            


<草紙44>「待ち遠しい新会館での句会」(富南辛夷句会便り)

 この3月に句会拠点の上滝公民館が、多世代交流拠点となる新施設「富山市立大山会館」へ移転する。2月末竣工ということで、舗装や植え込み用の整地のため、重機、舗装ローラがきびきびと動いていた。若いころ、施設建設に関わっていたので、日に日に建物が形を成していくのを眺めるのが好きだ。

 この新会館は、段丘崖を背にして白とダークグレーのモノトーンのすっきりとした外観だ。屋上から立山連峰を見渡せるように、外階段からも屋上に行ける。句会はいつからできるのか、上滝公民館の方に聞いたところ、3月に移転し、4月の第2週からできるとのこと。桜の満開のころだ。屋上へ行って立山連峰を見渡し、句を詠もう。待ち遠しいことだ。

 さて、今月の投句の季語は、1月下旬に大寒波が襲来したこともあって、雪、吹雪、暖炉、冬木立、氷柱などの冬の季語が半数近く見られたが、立春、建国記念の日、春めく、雪解、春の風、蕗の薹、梅、雪間草、薄氷、雛祭などの春の季語も多くなってきた。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  オリオンの真下春立つ雪の宿

  雪解して二川落ち合ふ夕日かげ

  菓子を切る庖丁来たり雛の前

康裕

                             

                            


<草紙43>「初スキー」(富南辛夷句会便り)

 年末年始に帰省する子供一家の正月行事の目玉はスキーだ。今年も車で30分程度の立山山麓スキー場の一つ、極楽坂スキー場へ向かった。
 このスキー場の醍醐味は何と言っても、冬晴れの山頂からの眺めだ。富山平野と富山湾を一望する景は雄大だ。その景に向かって一気に滑り降りる。爽快そのものだ。が、今年私は数え80才となり、大事をとって比較的斜度のゆるい林を抜けるコースを選んだ。家族の若い者たちは、好みのコブや斜面へ向かってスキーを蹴り出して行った。私は残念で少し悔しかったが、青空と雪を被った木立の美しさを味わいながら、休み休み滑るのもよいものだと思うことができた。
  思い出の句  湾めがけ孫と飛び出す初スキー 
  今年の句   初スキー転べば孫ら駆けつけて

 さて、今月の投句の季語は、お正月、初春、初詣、宝船、初日記、日記買ふ、年賀状、雑煮、節料理などの新年の季語が多く、続いて、寒九、寒波、寒餅などの寒に関わる季語が多かった。句材として「霊峰」、「立山より流るる水」、「立山茜」と立山を詠み込んだ句が数句あった。立山がいつも崇められ、暮らしに溶けこんでいる句が多いのは富南辛夷句会の特徴の一つと言えよう。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
  大雪となりて今日よりお正月
  寒餅をならべし部屋に予習の子
  雪の夜や家をあふるる童声

   康裕