<草紙68>「 厨の窓 」(富南辛夷句会便り)

 我が家のリフォームの折に、厨の東の窓を思い切り大きくした。立山連峰からの日の出を四季にわたって見たかったからだ。日の昇る場所は日ごとにと言ってよいほど稜線を動く。今はまだ浄土山あたりだが、これから春、夏と剱岳方面へ日々動いていくのがとても楽しみだ。また先日は大きな夕日が山肌の雪に反射して、剱岳や大日岳を茜色に染めた。そしてその茜色が刻々と夕闇の色に移っていくのを飽くことなく眺め続けることができた。

 こればかりではない。思わぬ楽しみも加わった。野鳥たちが窓辺の榊の実を啄みに来るのだが、厨の窓はミラーガラス。鳥たちには私が見えないが、私は心置きなく鳥たちを見ることができる。先日は花鶏(あとり)が来て、喉の奥まで見せて鳴いてくれた。厨の窓は、私の期待以上に、私に喜びをもたらしてくれた。

 さて、2月の句会だが、立春の後、春の雪とは思えぬ大雪が降ったからだろう、冬野、雪、雪卸、焼芋、寒波、除雪車、雪掻などの冬の季語の句が半数を占めたが、二月、建国記念の日、雪解、雪崩、猫柳などの早春を詠んだ句も出句され、明るい句会となった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  雪卸し能登見ゆるまで上りけり

  苔つけし松横たはる二月かな

  国二つ呼びかひ落す雪崩かな

                       康裕


<草紙67>「 寒鰤 」(富南辛夷句会便り)

 富山県氷見漁港では、令和6年11月20日に「ひみ寒ぶり」宣言が出され、年明けの1月20日にシーズン終了となった。富山湾で水揚げされ氷見漁港で競られた7キロ以上の鰤を「ひみ寒ぶり」というが、今シーズンは69,351本に達し、過去2番目の記録になったという。昨年1月の能登半島地震の影響で、紅ズワイガニ、白エビなどの不漁が起き、漁業者の不安を大きくしていただけに朗報だ。

 我が家の正月は、お節に加えて、寒鰤の刺身、照り焼きなどが定番だが、今年は、県外に住む釣り好きの孫の提案で、鰤しゃぶを囲むことになった。大物は捌けないので、魚屋で5キロ程度の半身を大きく捌いてもらい、夕刻には孫の包丁さばきによる鰤の薄切りが大皿に並んだ。子供とは思えぬ出来あがりに驚いた。帰省のたびに見せてくれる頼もしい姿はとても眩しく、嬉しい限りである。

 さて、初句会の季語だが、冬の星、冬の月、冬の虹、雪、寒鰤に始まり、正月ならではの初詣、箸紙、三日、正月、初旅、読初、弓始、双六、七種、女正月などに続いて、寒の内、寒晴などを詠んだ句が出され、華やいだ句会となった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  オリオンの下の過失はあまりに小

  農具市深雪を踏みて固めけり

  七草や雀烏の枝うつり

                       康裕


<草紙66>「 千古の家 」(富南辛夷句会便り)

  先日、本ホームページ「四季だより」の「冬日差し(千古の家)」が目にとまり、とても懐かしい思いが込み上げた。私は40代のころ福井県松岡町(現永平寺町松岡)にある大学に赴任し、附属病院の増築に取り組んでいたので、遠方から建築関係の来客があると良くこの「千古の家」に案内していたからだ。

 「千古の家」は中世末期より現存している貴重な古民家で、国指定重要文化財となっている。とりわけ建築に携わる者にとって、豪雪地帯特有の股柱や桁、丸みを帯びた茅葺屋根などは興味深いものであった。また、裏山を借景にした庭では季節ごとに枝垂れ桜、花菖蒲、紅葉が美しい。さらにまた、いつも火をくべている囲炉裏、地元産そば粉の手打ちそばのもてなしもあり、心が和む家だった。

 さて、今年最後となった句会の季語だが、自然薯、銀杏(ぎんなん)、南天の実、鵙などの季語で秋の名残の句もあったが、いよいよ冬本番を迎え、落葉、報恩講、ストーブ、枯木、山眠る、雪、古暦、年用意などの冬の季語が多かった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  枯れまじるにはとこ太き垣根かな

  四五日を残して已に古暦

  夕日こそ恋しかりけり年用意

                       康裕

「千古の家」HPへ