<草紙77> 「晩秋」(富南辛夷句会便り)
10年ほど前から、体育の日(スポーツの日)を目安として冬囲の準備にとりかかっている。先ずは、庭師が入り、庭木の枝払いをする。庭木がすっきりとした後で、私が雪吊りや生垣の雪囲を行うのだ。先日、我が家の物干し場に、鵙が姿を見せた。はや晩秋だ。「立山に初冠雪」のニュースを聞く日も近くなってきた。夏が終わったばかりの気がするが、頭を切り替えて冬への備えをスピードアップしていかなくては。今年も頑張ろう。
さて、句会だが、秋耕、秋の色、秋麗、仲秋、虫、コスモス、狗尾草、木犀、秋の雲、栗、穭田と仲秋から晩秋にかけての作品が多かった。また、熊の出没を詠みこんだ作品もみられた。今年は、句会のある大山会館や小学校の近く、住宅地にも出没し、子供達の学校生活に影響が出ているという。警戒せねばと思う。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
虫なくや我と湯を呑む影法師
月代をはなれ流るる秋の雲
美しき栗鼠の歯形や一つ栗
康裕
<草紙76> 「朝顔の頑張り」(富南辛夷句会便り)
「朝顔も熱中症か」と驚いて〈草紙50〉に書いたのは、令和5年8月。翌年は、朝顔のプランターを午後からの日当たりが少なくなる家影に置き、猛暑日は葦簀を掛けて対処した。2年目の今年は、もう一歩対策を進めて、水を保持しやすいように大きいプランターに変えて土をたっぷり入れた。また、朝顔の変化に気づきやすい場所を探して、窓からよく見える生垣に朝顔の蔓を這わすことにした。さらに葦簀を生垣に立掛けたので、広げたり閉じたりと日差しの調整が簡単にできた。6月21日、早くも猛暑日となり、雨も降らない日が続いたが、朝夕の水遣りで朝顔は頑張ってくれた。
ある朝、妻の声がした。「朝顔、咲いた、咲いた。随分咲いたねぇ」と。およそ70個だ。次の日から、花数が増えてきた。9月半ばの今でも100個を超えている。朝顔、頑張れ。我が家の朝は、立山連峰を背に涼やかに咲いている朝顔から始まる。
さて、今もなお猛暑日が続く中の句会だが、季節はいよいよ秋へ向かい始めたようで、朝顔、茗荷の花、虫、蟋蟀、風の盆、秋刀魚、蜻蛉、ばつた、稲刈と、皆が秋の季語で詠んでいた。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
明月のとどかぬ虫の高音かな
蜻蛉や糸瓜をさらす水広し
土の上に土の色なるばつたかな
康裕
<草紙75> 「朝の音」(富南辛夷句会便り)
朝の6時に寺の鐘が鳴ると山里が次第に目覚めていく。私は庭の草むしりを始める。静けさの中に、鉄路の音、通勤車の音などがだんだん増えてくる。7時には、村のチャイムで「浜辺の歌」の曲が流れる。私は心の中で歌詞を口遊む。今朝も「あした浜辺を さまよえば 昔のことぞ しのばるる 風の音よ~ 雲のさまよ~」と。「雲!」、思わず大日岳を見上げた。「秋の雲だ」。8月27日、昨日までの峰雲ではなかった。朝の草むしりも悪くない。
朝六つの鐘に始むる草むしり 康裕
さて、今もなお猛暑日が続く中の句会では、炎天、極暑などの季語が多く、暑さ疲れが見えたが、さすがに俳人の感性だ。法師蝉、新涼、葛の花、秋の蜂など、ほんの少しの秋への変化をとらえていた。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
新涼や豆腐驚く唐辛子
葛の花龍女が渕に径古りぬ
かへり来て顔みな同じ秋の蜂
康裕
