<草紙63>「 秋耕 」(富南辛夷句会便り)
例年8月のお盆を過ぎると、収穫を終えた茄子やトマト、胡瓜、ピーマンなどを抜いて土を打ち返す。しかし今年の衰えを知らぬ猛暑に堅くなった土を打ち返すのはきつい作業だった。ミニ耕耘機を使って耕すが、畝作りは鍬を使って一振りずつの作業だ。ひと息入れるときには曲げていた腰をゆっくり反らし、立山連峰を仰ぐ。しばし、山々と語り、再び鍬を持つ。どうにか畝ができると大根蒔きだ。しかしまた、とんでもなくスピードの遅い台風のため大根を蒔くタイミングにも悩み、いよいよ異常気象が身近に迫ってきていることを実感した。
8月の句会は都合により9月半ばの開催となった。そのため投句のあった季語は、梅雨明、炎暑、暑し、蝉、立秋、盂蘭盆、迎火、墓参り、残暑などで、夏から秋へと季節の移ろいの見られるものとなった。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
迎火のひとときこがす芦荻(ろてき)かな
故郷の残暑に帰りきたりしか
康裕
<草紙62>「常願寺川砂防施設 本宮堰堤 」(富南辛夷句会便り)
日本一の暴れ川と呼ばれる常願寺川の中流には段差がいくつか作られ、川幅一杯に滝のようになっているところがある。それらは富山平野に入る手前で土砂をせきとめている砂防堰堤だ。特に川上に位置する本宮堰堤は高さ22m、幅107mの大きな堰堤で、せきとめられた土砂の量は我が国最大級を誇り、上空から見下ろせば大きな川原を作っていることがわかる。平生の堰堤は、きらきらと光りながら落ちる「白糸の滝」のようである。堰堤下の川原に遊ぶこともでき、夏は川風が心地よい。
だが荒梅雨ともなれば濁流が滝となって轟く。流れ落ちると言うよりは、濁流を吐く、爆発させているというのがふさわしい。そして土の匂いを放つ。この様子を詠んだ「辛夷」の先達がいる。この堰堤近くに住まわれていた中川岩魚さんである。
山町を覆う土の香梅雨出水 岩魚 (『岩魚句集』に所収。)
さて、句会だが、山開き、夕立、夕焼、茄子、胡瓜、金魚、夏至、立葵、紫陽花、熱帯夜、梅雨晴間、片陰など、夏本番だ。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
夕立のにごり一すぢ神通峡
苗売に日蔭をのこすアスファルト
金魚居てしづかに病いゆるかな
康裕
<草紙61>「『辛夷』創刊百周年記念特集号の反響 」(富南辛夷句会便り)
6月の句会は、『辛夷』創刊百周年記念大会を終えてなお、心にその余韻が残る中で、中坪主宰をお迎えしての句会となった。主宰は、感謝の言葉に続けて、「記念特集号は、同人・誌友の方々だけでなく、報道機関、他結社の方々、そして物故会員のお孫さんからも購入いただき、その反響の大きさに改めて嬉しく思いました。また、皆さんから、辛夷社百年の略年表は俳句文芸史とも言えること、30年以上継続して出句された23名のプラチナ会員の方々の写真や句に「継続は力なり」ということを実感したこと、在りし日の祖母の写真や句を見て懐かしく思ったことなどの感想を数多くいただき、心打たれるものがありました」と、お話をしてくださった。
さらに、作句の心がけとして、①上手い句を作ろうと思わないこと、②自分の美意識・価値観を信じて詠んでほしいこと、③日常の暮らし、仕事、趣味などの自分の身辺足下を詠んでほしいこと、と3つの大事なことをお話くださった。
句会では、更衣、豌豆、苺、柿若葉、夏落葉、軒忍、蟻、風薫る、紫陽花、祭、短夜、などの夏の季語の句が並んだ。主宰はこれらの全句を一つ一つ丁寧に添削指導してくださり、感動に満ちた充実した句会となった。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
月出でんとす花豌豆の匂ひけり
豊なる堆肥にゆるる祭の灯
豪雨うつて去りたる柿の若葉かな
康裕