辛夷草紙<70>(令和7年4月)

<草紙70>「 紅椿 」(富南辛夷句会便り)

 4月に入ると存在感を増してくるのが紅椿だ。はち切れんばかりの蕾を見るとわくわくとした気持ちになる。そして、花びらがひとひらずつ捲るように開き出すと、鳥たちが蜜を吸いにやってくるのが楽しい。花びらに枯れ色が混ざるほどに咲き切ってぽとりと落ちるものもあれば、これから咲くと言う時に落ちるものもある。それらの落椿を熊手や竹箒で集め、手箕(てみ)に掃き入れるのだが、そのずっしりとした重さは紅椿の命の証だと感じることができる。

 さて、4月の句会だが、季語は春祭、春寒、蕗の薹、水温む、春田、田打、楤の芽、椿、四月馬鹿、日永、春愁、草餅、木瓜の花、春暁、花、桜、菜の花、春菜、春の宵などの三春にわたり、正に春を楽しみ惜しむ句会となった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  谷々に乗鞍見えて春祭    

  月出でて一枚の春田輝けり  

  草餅の色濃くかたく夜はふけぬ 

                       康裕