五岳集句抄
昼顔やひとかたまりに遊女の碑 | 藤 美 紀 |
裏道の坂ゆるやかに蝶の昼 | 野 中 多佳子 |
震災の前の能登塩春惜しむ | 荒 田 眞智子 |
真つ白な風紋を踏む聖五月 | 秋 葉 晴 耕 |
零し飲む延命水や薄暑光 | 浅 野 義 信 |
数は負けれど太かりし蕨採る | 太 田 硯 星 |
朝まだき落花を誘ふ風ひとつ | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
頂が見えて急登山笑ふ | 青 木 久仁女 |
花疲れコンロにミルク吹きこぼれ | 成 重 佐伊子 |
パークゴルフスタート待ちを夏燕 | 菅 野 桂 子 |
朝よりの雨粒連ね花筏 | 脇 坂 琉美子 |
薔薇掠めコミュニティーバス停まりけり | 明 官 雅 子 |
花水木一直線の街まぶし | 二 俣 れい子 |
朝刊をとれば匂ひ来ライラック | 岡 田 康 裕 |
白薔薇のゆるるアーチを戻り来し | 北 見 美智子 |
切れのよき母の鋏や囀れり | 野 村 邦 翠 |
スーツケースに結ぶバンダナ立夏かな | 杉 本 恵 子 |
口角を上げよと雨の八重桜 | 石 黒 順 子 |
家中に子らのさざめき夏に入る | 中 島 平 太 |
途中まで道連れありて花朧 | 浅 尾 京 子 |
高林集句抄
茶事果てて足裏の疲れ夏めく日 | 寺 田 嶺 子 |
<主宰鑑賞>
作者の嶺子さんは表千家茶道教授として多忙の日々を過ごす。仔細は知る由もないが、「茶事果てて」からは炭火の継ぎ足しから始まり懐石そして茶とフルコースの正式な茶会を見事に行われたことがうかがえる。その達成感の心地よい「足裏の疲れ」なのかもしれない。折しも「夏めく日」、その生命力ある季節の勢いにも励まされたような忘れられない日に。
メーデーの列見送りて道渡る | 鈴 木 てる江 |
<主宰鑑賞>
メーデーといえば大集会もさることながら要求を訴える長い列の行進も五月入りの風物詩の一つ。そんな行進にたまたま出くわしたのである。参加者の様子を目の当たりにして改めて現実社会の生々しい実態に思いを致すひと時となったかと。日々の暮しとは異なる雰囲気に足を止め眺めるのである。
衆山皆響句抄
窓際に欠伸ふはりと桜散る | 中 島 兎 女 |
<主宰鑑賞>
同時投句に「図書室の奥に陽の射しうららかや」があるから、ここでの窓際は図書室かもしれない。気を遣わなくてもよいスペースも確保されているようである。何の因果関係もない「欠伸ふはりと」と「桜散る」が、如何にも自然の流れで繋がっているように詠まれて違和感を覚えさせない。むしろ余韻が残ろう。心地よく楽しくさせてくれる俳句的表現。
青田風浴びて帰りのバスを待つ | 松 原 暢 子 |
茄子苗の植ゑ付け終へて米寿かな | 水 上 美 之 |
雉啼くや電動ミシン縫ひ過ぎて | 今 井 久美子 |
筍を茹でてほつこり時きざむ | 紺 谷 郁 子 |
来年もきつと来ようと土手桜 | 勝 守 征 夫 |
若き日のサザンの歌や夏近し | 田 村 ゆり子 |
再会の駅に潮風夏めきて | 高 岡 佳 子 |
遠足子発てば熊鈴さまざまに | 赤 江 有 松 |
上着脱ぎ裏に回れば落椿 | 吉 田 和 夫 |
早苗ゆれ赤子泣くかにふるへをり | あらた あきら |
夜桜にもうすこし居よとせがまるる | 細 野 周 八 |
母の日や父の日兼ねし荷の一つ | 新 井 のぶ子 |
雲早し足下ふさぐ今年竹 | 針 原 英 喜 |
御駄賃は夕日浮かべし冷し飴 | 内 田 慧 |
踊子草名を知ればそこかしこかな | 早 水 淑 子 |
何処より見掛けぬ顔の雨蛙 | 鈴 木 久與志 |
音読の子の英語聞く四月かな | 池 田 衣 舞 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。
「高林集句抄」「衆山皆響句抄」掲載句への感想や励ましの言葉をいただければ嬉しいです。
ご記入いただきましたコメントは、学びのページの「響き」に掲載させていただくことがあります。