五岳集句抄
水桶に西瓜浸され尼の留守 | 藤 美 紀 |
青田風縁なくば来ぬこの町に | 野 中 多佳子 |
鉛筆はB吟行の山の日よ | 荒 田 眞智子 |
登りたき木の枝振りや秋近し | 秋 葉 晴 耕 |
理髪店出でて炎暑に首さらす | 浅 野 義 信 |
家々の小さき気息や夜涼の灯 | 太 田 硯 星 |
雲がまた天を覆ひし昼寝覚 | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
大暑かな朝から小言やんはりと | 青 木 久仁女 |
バス待つはわれ一人なり西日中 | 成 重 佐伊子 |
夏帽子鏡をのぞき旅ごころ | 菅 野 桂 子 |
汗の中に顔あるごとき小半日 | 脇 坂 琉美子 |
噴水へ寄りかかりたし街を行く | 明 官 雅 子 |
真夜覚めて明日の麦茶冷しをく | 二 俣 れい子 |
夏わらび監的壕の鉄鎖朽つ | 岡 田 康 裕 |
石仏の風にかわきし喜雨のあと | 北 見 美智子 |
帰省子の一番星をまづ探す | 杉 本 恵 子 |
琉球の海の緑の夏茶碗 | 石 黒 順 子 |
組み直す庭石蜥蜴見てをりぬ | 中 島 平 太 |
朝からの雨吸ひ込んで苔の花 | 浅 尾 京 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
九月に入っても40度近い気温の日が続き、各地で記録ずくめの暑さが続いた。日本はもう亜熱帯性気候に、そして四季から二季へと移行中との説も。掲句では「青空なんか要らない」などと、とんでもない物言いに驚かされる。が、「と思ふ暑さかな」と結ぶことで、そんな戯言でも言わないとやっていられませんよ、と読者のユーモア感覚に訴えるのである。
<主宰鑑賞>
富山県射水市にある絵本の公立博物館「射水市大島絵本館」。そこに至るまで人影を目にすることもなく青田風に心地よく吹かれるとは、あたかも絵本の世界へと足を踏み入れる前段階の嬉しい設えのようでもある。絵本は「最も小さい人から年齢制限なし」との落合恵子さんのラジオの言葉を思い出す。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
「旅立ち祝ふかに」とあるから花火観覧のための乗船ではなさそうである。やはり豪華客船などでの船旅が思われる。その出発直前の窓から折しも揚花火が望めたのであろう。船窓といえば丸い窓が浮かぶが、その丸窓を花火の綺羅が埋め尽くす。偶然か、はたまた気の利いたサプライズか。とにかく揚花火の句としては異色。記憶に色濃く残る一夜になった。
打順待つ球児の背ナに夏の蝶 | 川 田 五 市 |
ホームラン炎暑の空を真つ二つ | 仕 切 義 宣 |
花火果て闇より続く波の音 | 正 水 多嘉子 |
盛り上げの限界を超えかき氷 | 紺 谷 郁 子 |
冷房のあれば足止め観光地 | 田 村 ゆり子 |
呼び出しの声伸びやかに名古屋場所 | 高 岡 佳 子 |
ただいまと声弾ませて玉の汗 | 赤 江 有 松 |
ソフトクリームの列長ければ地酒買ふ | 中 林 文 夫 |
蝉の声ほんものは右耳にのみ | 加 藤 雅 子 |
無洗米なれど磨ぎたる秋初め | 坂 本 昌 恵 |
畑仕事終へて一合初鰹 | 清 水 進 |
雀たち騒ぐ庭にもやつと秋 | 北 川 直 子 |
省けさう今日の水遣り夕立雲 | 村 田 昇 治 |
昆布干す浜の人影踊りめく | 野 間 喜代美 |
帰省子に米櫃満たし待つメール | 永 野 睦 子 |
凌霄花銭湯今は雑貨店 | 谷 澤 信 子 |
草むしり涙のやうな汗落ちて | 鉾 根 美代志 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。