辛夷草紙<78>(令和7年11月)
<草紙78> 「熊出没」
私と熊との出会いは有峰。薬師岳の麓にある標高約1000mの高原盆地だ。数年前の秋、有峰湖周辺を吟行する「有峰俳句の会」に参加し、熊棚や熊の糞を見、子熊が木を降りてくるのを初めて見た。その時に作った3句。
見えるはずの薬師岳の肩に熊棚は
秋しぐれ百歩歩けば熊の糞
やや寒の大樹を降りる熊の爪
その頃の有峰は団栗や山毛欅の実が多く、「熊鈴を鳴らしながら遊歩道を歩けば、熊が察知してくれ、熊が身を隠す」という状況であり、正しく警戒すれば、熊との共生が可能だと思っていた。
が、今年は団栗や山毛欅の実が凶作で、私が住んでいる地域でも、連日、熊出没情報を聞く。緊急対策として、柿の木の伐採が推奨されているが、子供のころ「学校から帰ってきたら甘いものが食べられるように」と父母と一緒に柿の木を植えたことを思うと、いきなり伐採とはいかない心情だ。せめてと思い、柿捥ぎに精をだしている。
繰りかへす市の広報は柿捥げと
孫ら来て柿を捥がんと棹三本
康裕

