五岳集句抄
| コスモスの中に埋れて海の音 | 藤   美 紀 | 
| 馬籠路の萩散る雨の石だたみ | 野 中 多佳子 | 
| 時々は月に顔あげ針仕事 | 荒 田 眞智子 | 
| 籾殻の袋のなせるピラミッド | 秋 葉 晴 耕 | 
| 合掌の手に川明り地蔵盆 | 浅 野 義 信 | 
| 軒下の輝き出しぬ稲穂波 | 太 田 硯 星 | 
| それぞれの青春はるか蝉しぐれ | 山 元   誠 | 
青嶺集句抄
| お囃子の一音足りぬ村まつり | 青 木 久仁女 | 
 
| 夏大根の辛さ夕餉の独り言 | 成 重 佐伊子 | 
| 夏帽子さまざま町内草むしり | 菅 野 桂 子 | 
| 耳朶に残る声を愛しみ萩の秋 | 脇 坂 琉美子 | 
| 秋蝶の黄色にしばし歩を合はせ | 明 官 雅 子 | 
| 梨送る一筆箋の三枚目 | 二 俣 れい子 | 
| 妻の手をとりて御堂へ葛の花 | 岡 田 康 裕 | 
| 参道の竹灯籠や秋時雨 | 北 見 美智子 | 
| 哀しめば胸の高さを秋の蝶 | 野 村 邦 翠 | 
| きつちりと量る枡の目今年米 | 杉 本 恵 子 | 
| 土産とてTシャツと置く櫟の実 | 石 黒 順 子 | 
| 追ひ払ふほどの数見ず稲雀 | 中 島 平 太 | 
| 白い供華ばかりを選りて盆の路 | 浅 尾 京 子 | 
高林集句抄
  <主宰鑑賞> 
 今の子らはどうなのであろう。昔は外で遊ぶのが当り前、床下などの蟻地獄をいつも目にしていた。掲句を一読、近頃はあまり出合っていないが、まざまざと脳裏から蟻地獄の映像が出て来る。確かに非情なまでに乾ききった砂は艶めくような白い光をも放っているようである。その「うつくしや」と思わせる妖しさが獲物を誘い込むか。美が地獄への入り口。
  <主宰鑑賞> 
 かかりつけ医と言えば内科を思うが、歯科や眼科などの診療科にも言える。暑さが秋季になだれ込んで晩夏光も重くれた雰囲気となった。そういう空気感の中での受診がもたらした一句かも知れない。今の世は抗老化、抗加齢が課題である。フレイルなる語もよく見聞きする。さあ、何から始めるか。  
衆山皆響句抄
  <主宰鑑賞>
 茄子は様々に調理されて実に親しい野菜であり茄子に関わる季語も数多い。家の敷地内か、また近くにある畑より夕餉用の茄子を取ってくるという暮しぶりも好もしいかぎりである。「茄子も仕舞と」からは秋茄子も思われる。仕舞の時季ともなれば成長を待つうちに腐る不安もあろう。「小さきも取る」ことで少しでも旬の味を供したい、との主婦の思いが伝わる。
| 通草熟るまづ絵手紙にをさめけり | 角 田 睦 子 | 
| 水遣れば嬉しと虫の声しきり | 坂 本 善 成 | 
| 三台の草刈機の音休耕田 | 勝 守 征 夫 | 
| 風かよふ草踏む道の白露かな | 佐々木 京 子 | 
| お見舞のメロンとともに退院す | 久 光   明 | 
| 草の葉の露にやさしき日差しかな | 谷   順 子 | 
| 行水の夫待つ夕餉汁さめて | 五十嵐 ゆみ子 | 
| 階段の一段ごとの鰯雲 | 畠 山 美 苗 | 
| 夜勤へと西日に向かふ漢あり | 大 池 國 介 | 
| 喜雨来たる本降りまでを手に受けて | 早 水 淑 子 | 
| 秋雨の葉音と共に草を抜く | 今 井 秀 昭 | 
| 紙コップになりし帰省子十二人 | 今 井 久美子 | 
| 砂利山に凛と立ちたる月見草 | 飯 田 静 子 | 
| 秋の野を新幹線はのんびりと | 土 肥 芥 舟 | 
| 日翳れば秋の匂ひもそこはかと | 鶴 松 陽 子 | 
| ラッパ飲み上手になりて夏終る | 西 出 朝 子 | 
| 霧ほどけ朝日傾るる山路かな | 長 山 孝 文 | 
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。