辛夷草紙<81>(令和8年2月)
<草紙81> 「熟柿と寒雀」(富南辛夷句会便り)
山も田も雪一色になると、枝に採り残された熟柿は雀たちのご馳走だ。「雀たち、昨日一日で全部食べてしまったわ」と厨から妻の呟きが聞こえたので、窓から土手を見ると、熟柿がすっかり無くなっていた。「庭の柿は、どうだろう。棹が届かなくて100個ほど残っていたはず」と、玄関から出てみると、果たして雀が群がって賑やかにつついている。庭には熟柿の残骸が散乱し、独特の強い匂いを放っているが、雀たちの見事な食べっぷりを微笑んで眺めていた。
が、ふと思った。雀たちは例年になく苦労しているのだ。昨年の秋は、熊の出没が頻発し、早期の柿捥ぎや柿の木の伐採が奨励された。人の命に係わることなのでやむを得ないと思ったが、今、里全体に少なくなった柿の実に嬉々としている雀たちを目の当たりにすると、複雑な心持ちだ。人と自然との共生のバランスが崩れている。
寒雀群れて熟柿を食ひきそふ 康裕
さて、2月の句会だが、正月より強い寒波が2度来たので、寒、雪、雪掻、雪晴、氷柱の句が見られたが、立春、冴返る、春寒、雪解、紅梅と早春の句も多く、明るい句会となった。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
立春の暁の時計なりにけり
春寒し閉ざさで眠る停車場
紅梅の散る時薬効きそめし
康裕

