辛夷句抄(令和7年9月号)

五岳集句抄

抽斗に残暑のこもる琴の爪藤   美 紀
自動ドア冷房効きし手術室野 中 多佳子
雨のまだ音にはならぬ稲の花荒 田 眞智子
ばつたの子一跳ねをして一呼吸秋 葉 晴 耕
首上げて蜥蜴は風を聞き分けて浅 野 義 信
空梅雨や声を大きく水を遣り太 田 硯 星
華やかに咲きて静寂牡丹かな山 元   誠

青嶺集句抄

伝えねばならぬひと言朝の蝉青 木 久仁女
かの家の今年少なき立葵 成 重 佐伊子
一行の後を小走り銀竜草 菅 野 桂 子
月影にもたれ合ひをり花ぎぼし脇 坂 琉美子
掲示板ビラの重なる暑さかな明 官 雅 子
日向くさき子らのTシャツかき氷二 俣 れい子
近づけば山影退る植田かな岡 田 康 裕
明日ひらく蕾はいくつ庭の蓮北 見 美智子
十薬の匂へる指やペン止めて野 村 邦 翠
エプロンに探す輪ゴムやほととぎす杉 本 恵 子
クローバーの丘となりたり母校跡石 黒 順 子
船旅にどこまで蹤くか火蛾群るる中 島 平 太
花南天零すおしめりほどの雨浅 尾 京 子

高林集句抄

倒木の裂け目嗅ぎゐる斥候蟻新 村 美那子

  <主宰鑑賞> 
 斥候とは敵の様子や地形などを偵察する単独兵士または数人を言う。それが動物の分野でも使われて斥候蟻と相成る。斥候蟻は新しい巣の候補や餌を探すのである。木の腐っている部分は蟻が好んで巣を作る。見られているとも気付かずに倒木の裂けて腐った箇所を「嗅ぎゐる」何匹かの「斥候蟻」である。倒木の裂け目から蟻の世界に思いを巡らすひと時。

豆蒔いて毎日のぞくプランター石 原 照 子

  <主宰鑑賞> 
 プランターの初々しい土に、大豆や小豆の種を蒔く。そんな作業も面白いが、その後の様子が気になるのも人情というもの。畑仕事とは違ったベランダなどでの楽しい時の過ごし方がそこにはある。発芽から双葉へと触れんばかりに覗き込む優しい眼差しが思われて何とも微笑ましい読後感である。
  

衆山皆響句抄

炎昼の雀に体温問うてをり山 腰 美佐子

  <主宰鑑賞>
 鳥には汗腺がない。体温を下げるためには口を開けて水分を蒸発させるというが、実に心許(こころもと)ないものである。水浴びをするのは、羽の埃や寄生虫などを落すためで体温調節ではないらしい。猛暑の日々は雀にも命にかかわる危険な状態である。「雀に体温問うてをり」からは雀や生き物への優しい眼差しを思う。身近ながら意外な切り口からの地球温暖化の一句。)

青紫蘇を急ぎ刻みて卵焼き永 井 淳 子
道ばたの草を踏みゆく暑さかな武 内   稔
団扇にてバーベキューの味一段と平 田 外喜夫
子燕の育ち盛りや巣は毀れ那 須 美 言
刻むやうに半年を来て夏祓馬 瀬 和 子
サングラス色薄くして見守り隊加 藤 友 子
久々の映画館へと日傘閉づ山 口 路 子
蟻の列コンクリ熱く地に降りる山 森 利 平
野茨のほぐるる花の音かとも野 間 喜代美
アイス珈琲氷の音と運ばるる川 渕 田鶴子
四世帯好きも嫌ひも鰻の日八 田 幸 子
挨拶の声通りけり山開き 今 堀 富佐子
若女将少し白髪も葛桜小野田 裕 司
誕生日夫と分け合ふ冷奴 近 藤 令 子
夏瘦せの指で巡るや地図の旅大 井 まゆ子
いつの間に放棄田に夏木立かな善 徳 優 子
ハレの日の夕餉の締めはメロンの香小 川 正 子

※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です