前田普羅<47>(2024年9月)
< 普羅47 前田普羅と「鰤網」③ >
普羅の唱えた「地貌」を大切にして句を読むと、よりダイナミックに句の情景が立ち上がってきます。鰤漁の始まる初冬、能登をはじめとする北陸地方の雷は、その一撃の響きの恐ろしさは言うまでもなく、空も海も暗く、風も波も大荒れ、しかしながら、そこに鰤の豊漁の兆しとしての期待と喜びも併せ持っています。このような氷見の冬の海の実景をもとにした主宰中坪達哉の鑑賞を、その著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。
(抜粋p112) 鰤網を越す大浪の見えにけり
「鰤」や「鰤網」も季語であり、歳時記としては「鰤網」に分類される一句であろうが、内容的には「鰤起し」が詠まれている。雷鳴がとどろき、「鰤網を越す大浪」が岸辺にまで迫り来るシーンである。
普羅は、氷見の海岸線の断崖の道を歩きながら「鰤網を越す大浪」を見ている。ルート的には現在の能登立山シーサイドライン、すなわち国道160号線ということになるが、当時は道幅も狭い断崖を削った道であった。