前田普羅<53>(2025年3月)
< 普羅53 前田普羅の「風邪」>
普羅の風邪の句を、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。
(抜粋p165) 「普羅の風邪」
風邪人に寒月すでに上りをり 普羅
普羅の風邪の句といえば、何句もあるが、先ず挙げたいのがこの一句である。上五、中七のカの頭韻が効いている。昭和22年の作。漂泊の誌魂と神韻縹渺たる普羅の句境を思う。
柿甘し風邪のつのるも物ならじ 普羅
『古春亭句集』中の昭和20年の作に、「今年は何十年になき柿の豊作にて、杏子君より幾度も柿を贈らる。風邪」と前書きのある一句である。柿が大好物の私の愛誦句である。風邪がひどくなってきているにもかかわらず、「柿甘し」「物ならじ」と詠む。そこには、大俳人・普羅というよりも人間・普羅としての素顔がある。正岡子規ではないが、柿を甘し、甘しと口にする普羅像を身近に感じる一句と言えよう。
(『辛夷』平成13年3月号掲載)