五岳集句抄
故郷の花菜明りや一両車 | 藤 美 紀 |
ビル街へ春のコートの裾さばき | 野 中 多佳子 |
振り止まぬ牛の尻尾や春の草 | 荒 田 眞智子 |
春耕や一日エンジン快調に | 秋 葉 晴 耕 |
仁王像の腕の血脈木々芽吹く | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
一番星出てこつくりと雛人形 | 青 木 久仁女 |
体温の抜くるに任せ春満月 | 太 田 硯 星 |
ゴルフへと赤城颪を是となして | 山 元 誠 |
恋猫に一瞥されて電車待つ | 成 重 佐伊子 |
割箸にカタカナつらね苗札と | 菅 野 桂 子 |
花なづなことりことりと飲食す | 脇 坂 琉美子 |
一歳の産毛光りてあたたかし | 明 官 雅 子 |
犬の歳訊かるる散歩木の芽風 | 二 俣 れい子 |
菜の花や土塊くだく鍬光る | 岡 田 康 裕 |
色見本膝にひろげて春障子 | 小 澤 美 子 |
ひとしきり鶯啼きて谷戸目覚め | 北 見 美智子 |
蕗味噌に抓めとばかり蕾かな | 野 村 邦 翠 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
少年時代の凧揚げを思い出す。走りながら凧が風に乗るタイミングを見計らう。そして空へ飛ばすように手を放す。色々と理屈めいたものはあるが、つまるところは試行錯誤から得られる凧との一体感が大事である。それを「術は凧にも教へらる」とは言い得て妙。凧も従来の和紙と竹からプラスチックにビニール製へと変った。凧揚げの術も変って来ているか。
<主宰鑑賞>
なりふり構わず恋に熱中するのが恋猫というもの。発情して幾日も帰って来ないという句も多い。が、掲句ではご自宅の庭が恋の修羅場となった模様。それを見通していたことが「案の定鉢の転がる」からも分かる。よくやるなーと呆れる思いの一方で、頑張っている猫たちを労う気持ちもあろうか。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
「田返し」は「田打」の傍題にて「田起し」とも。今やトラクターなどが主流。返す土から出る虫を喰おうと喧しいエンジン音にもめげず色々な野鳥が農機の後を追う。とりわけ鴉は強くて他を押しのける圧倒的な存在。そんな鴉が田返しが遅いとばかりに田面を突くのである。突きながら虫を捕える様子なども想われる。目を合わすことなく鴉に迫った一句。
暖かや園児総出か散歩道 | 井 上 すい子 |
読み終へて栞抜きたり二月尽 | 山 口 路 子 |
風花を映す石垣バスを待つ | 大 代 次 郎 |
探梅を兼ねて広報十五軒 | 若 林 千 影 |
今頃は神社の梅もほころぶや | 上 杉 きよみ |
ボード抱くサーファーの背ナ砂光り | 岡 田 杜詩夫 |
山笑ふ妻に姿勢を正されて | 石 﨑 和 男 |
独りでも抹茶をたてて雛納 | 沢 田 夏 子 |
つまづきて庭に見つけし蕗の薹 | 島 田 一 子 |
登校生春の光を照り返し | 宮 田 衛 |
風いまだ冷たき庭に供花を選る | 佐々木 とも子 |
雨垂れに合はせ首振る仔猫かな | 水 戸 華 代 |
陽炎や離陸時間を待つ機体 | 正 水 多嘉子 |
針供養するほどもなき針の数 | 中 村 伸 子 |
窓を打つ春一番やスクワット | 斉 藤 由美子 |
消灯に点滴ともり夜の冱て | 三 島 敏 |
五年目の百歳体操春めきて | 近 藤 令 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。