前田普羅<28>(2023年2月)
< 普羅28 前田普羅の「寒雀の闘い」>
今回は、普羅の「寒雀」の句を、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。
(抜粋p38) 寒雀身を細うして闘へり
世の中が変わろうと、動物たちの弱肉強食という生態系の過酷さは変わらない。小さい雀が生き残って行くことは大変なことと思う。雀は蝉や蜻蛉や蝶を襲うが、むしろ強者に襲われることが多い。鷹や梟などの猛禽は言うに及ばず、猫や鵙などにも常に狙われる。警戒心が強い雀が人間社会に接近しているのも、大きな鳥などの外敵から身を守るためではなかろうか。とりわけ獲物のない寒中は、否が応でも飢えを耐えて闘う季節となる。
寒中のふくら雀が「身を細うして闘へり」というところに、一句の慄然とした劇的さがある。初見時には、空中で鵙などに襲われて必死に闘い地に落ちた寒雀が、末期となるかもしれない防衛戦に身をあらんかぎりに研ぎ澄まして臨もうとしている、そんな状況を想い描いた。が、大正10年発表のこの句は、後に普羅自身が鎌倉円覚寺にて目撃した2羽の雀の闘いである、と書いている。自句自解の難しさを痛感するのだが、句自体は雀同士の闘いではなくて命を懸けた強敵との闘い、と読ませるだけの切迫感と力強さを持っており、この句が普羅の代表作の一つであることに何ら変わりはない。『普羅句集』所収。