辛夷句抄(令和4年3月号)

五岳集句抄

行き先でマスクの種類選びけり今 村 良 靖
雲間より朝の日矢差す崖氷柱藤   美 紀
母の足袋日のあるうちと縁に干し野 中 多佳子
ほどなくも話とぎれて餅を焼く荒 田 眞智子
餅を切る飢餓なき世界念じつつ秋 葉 晴 耕
コロナ禍の街マフラーに顔埋めて浅 野 義 信

青嶺集句抄

初座敷白磁の色香ただよひぬ青 木 久仁女
買ひ遅れやけに大きな注連飾る太 田 硯 星
ボトルには古き友の名年惜しむ山 元   誠
厚着して「おわら」けいこに交じりをり成 重 佐伊子
幾筋か笊に七種流すまじ菅 野 桂 子
いよよ雪むかへ撃つ気の老二人脇 坂 琉美子
独り碁の父のそびらの白障子明 官 雅 子
やはらかに柚子とふやけて仕舞風呂二 俣 れい子
釘頭一分浮かせて冬構へ岡 田 康 裕
手作りの手毬と独楽を脇床へ小 澤 美 子

高林集句抄

寒き日は寒き顔して野の仏杉 本 恵 子

  <主宰鑑賞> 
 通いなれた野道の旧知とも言うべき「野の仏」であろう。かつて吉田拓郎が作曲して自らも歌い、南こうせつが歌った「野の仏」という曲を思う。作詞は岡本おさみで仏さまの表情を楽しく見つめたものである。対して恵子さんの句は「寒き日は寒き顔して」と自らの思いが野仏の表情となっているような味わいがある。寒さを分かち合い、気を引き締めるか。

古着屋の壁の革ジャン怒り肩猪 羽 希美子

  <主宰鑑賞> 
 革ジャンパーは毛衣の傍題、約(つづ)めて革ジャン。レザージャケットとも。「怒り肩」からは肩にプロテクターがあるオートバイに乗る人たちでお馴染みのライダースジャケットであろう。普段はそう意識しないが、「古着屋の壁」に掛かると「怒り肩」と見える面白さ。古着となっても野性的な革ジャン。
  

衆山皆響句抄

雪晴の空流し込む胸の底山腰 美佐子

  <主宰鑑賞>
 まことに豪放にして痛快なる一句である。が、その流麗な調べによって結句から再び上の句へと戻って「雪晴の空流し込む」が実感に裏打ちされたものと思えてくる。句の勢いも動態からか。ジョギングの調子も良く力強い走りとなった頃であろう。額に胸に「雪晴の空」がいよいよ迫って来る。「胸の底」に溜まる大気を、否「雪晴の空」を感じるのである。

人絶えし神社の灯り大晦日鍋 田 恭 子
また仕舞ふ亡夫のセーター吾が手編松 原 暢 子
笹鳴もせずに地に下り餌求め内 田 邦 夫
陰雪を砕きて昼の晴を呼ぶ今 井 秀 昭
そろへ菜の季節となりて元気満つ今 泉 京 子
冴ゆる夜の写経に鉄瓶鳴りにけり川 田 五 市
新雪に踏み入る跡を振り返り西 田 満寿子
七草の水にほどけし青さかな水 戸 華 代
胸骨のひびに響かぬやうくさめ立 花 憲 子
供花となり葉も実も匂ふ黄千両木 谷 美 以
点袋去年の額の疎覚え新 井 のぶ子
途中からは樹氷の続くスキーかな渡 辺 美和子
祝木を割る里の庭晴れ渡り大 塚 諄 子
退院の雪の白さを一歩踏む村 田 昇 治
冬麗の空濁りなく嘘つけず中 島 兎 女
短日や人なつかしく外(と)に出でて早 水 淑 子
湯気立てて曇り硝子の中に老ゆ栄   牧 子

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