五岳集句抄
潮風も味の一つよ大根干す | 藤 美 紀 |
玻璃に映る吾と目の合うて秋闌けて | 野 中 多佳子 |
スキップの少し重たき秋はじめ | 荒 田 眞智子 |
活けられし花の寄り添ふ冬隣 | 秋 葉 晴 耕 |
木へ登り熟れ無花果を見失ふ | 浅 野 義 信 |
誕生日せぬこと決めて爽やかに | 太 田 硯 星 |
手を合はす墓の周りの木の実かな | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
走り根に躓く木の実しぐれ中 | 青 木 久仁女 |
今日も梨二つあがなふ湯の帰り | 成 重 佐伊子 |
なでしこ忌家持像は筆かろく | 菅 野 桂 子 |
萩散りぬかがんでものを想ふとき | 脇 坂 琉美子 |
鉦叩とぎるる会話つなぎけり | 明 官 雅 子 |
草の花勝手口にも母の杖 | 二 俣 れい子 |
ひとつ避けひとつ踏みたり銀杏の実 | 岡 田 康 裕 |
這ふ嬰の手編のセーター白づくめ | 小 澤 美 子 |
ふり返りつつ木犀の風の中 | 北 見 美智子 |
冬瓜を抱へ直して横断す | 野 村 邦 翠 |
どの畦も山へと続く赤のまま | 杉 本 恵 子 |
普羅句集鞄の底に団栗も | 石 黒 順 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
十四夜月の待宵から二十日月の更待月まで、さらに宵闇など月の季語は続く。より多くの季語に挑むも楽しい。掲句の居待月は十八夜の月。庭に椅子を据えての月見と洒落込むのだが、亡き夫云々とは詠まず「椅子二つ据ゑてひとり」と客観的表現にとどめている。それが反ってご夫妻の来し方を想わせるのみならず、今も変わらぬご主人への思いを伝える。
<主宰鑑賞>
「草の香」は初秋の季語で様々な秋草の香り。似た表現の季語に「草芳し」があるが、これは「春の草」の傍題。掲句は「秋麗」「秋晴」が隠し味となっている一句であり、晩夏の名残もありそうで「土手に腰下ろす」に抵抗感もないのである。「草の香につつまれ」には何とも言えない青春性がある。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
先ず「腸壁のごと」に驚く。いきなり、俳句には馴染まないような言葉が飛んで来たようで虚を衝かれる。途切れることなく彼方まで広がる鰯雲、その天空の巨大空間が、あろうことか細小な人間の腸壁と同じであるとは痛快この上ない。ピノキオが入ったのは鮫の胃だが、兎女さんは人の腸の中へ入る秘法の持ち主らしい。大胆にして柔軟な発想に引かれる。
名月の移りて部屋を移りけり | 吉 野 恭 子 |
籾殻をもらふ支度の頬被り | 平 木 美枝子 |
咲ききりし薔薇と知りつつ蕾探す | 井 上 すい子 |
狼の遠吠えしさうな後の月 | 般 林 雅 子 |
金木犀朝の香りと夕べの香 | 沢 田 夏 子 |
猫じやらしふれてふれられ散歩道 | 坂 東 国 香 |
ひつぢ田に隣の猫と家(うち)の猫 | 水 戸 華 代 |
露草の茎の伸びしろ犬の墓 | 片 山 敦 至 |
穭田に放ちて見たき子山羊らを | 武 内 稔 |
朝寒や転ばぬやうに励まして | 廣 田 道 子 |
秋深し一人暮らしの二十五時 | 那 須 美 言 |
枯芒千々に揺れをり関ケ原 | 高 岡 佳 子 |
雲切れて背伸びを誘ふ風の色 | 針 原 英 喜 |
大綱引尻もちつけば秋高し | 赤 江 有 松 |
ひと雨が季節を分かつ秋夜かな | 岩 﨑 純 子 |
大ぶりの碗に味噌汁芋多め | 大 井 まゆ子 |
血膨れし秋蚊飛べずや床這ひて | 近 藤 令 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。