前田普羅<50>(2024年12月)
< 普羅50 前田普羅と最上川 >
普羅の最上川の句を、中坪主宰は斎藤茂吉の歌や松尾芭蕉の句などと併せて鑑賞し、普羅自身の文章で情景を説明しています。それらを主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。
(抜粋p61) 一つ行く橇に浪うつ最上川
『定本普羅句集』ではこの句に続いて「橇の径いくつも古りぬ最上川」「最上川吹雪過ぎたる北明り」がある。最上川で吹雪といえば斎藤茂吉の「最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも」が浮かんで来るが、茂吉の歌は戦後のものであり普羅の諸作は昭和11年のものである。普羅は、俳人ならば当然ではあるが、季節が異なるといえども「奥の細道」での芭蕉の句「五月雨をあつめて早し最上川」や、その言葉「水みなぎつて舟あやうし」を意識していたことであろう。「浪うつ最上川」にその挨拶心が見えなくもない。庄内平野と最上川を見据えた普羅の地貌の諸作といえる。
作句の状況は普羅の臨場感ある文章で残るが、今となっては民俗学的にも貴重なものである。「橇の径は最上川の端に出た。其処で川下から川に沿った雪の切岸の上を走って来た橇の径と一緒になり、さらに太い橇の径となった。その太い橇の径の上を人が大きな橇を曳いて行く。橇は六尺の雪の切岸を最上川に踏み落しはしないかと思う程重そうだ」、そして云う「川浪は機嫌のいい時には、此の径をたどる人や橇に挨拶の手を差し出す」と。