五岳集句抄
ベランダに蝶の触れゆくおじぎ草 | 藤 美 紀 |
桑の実をふふめば母の幼ななる | 野 中 多佳子 |
さみだるる暗さがテスト用紙まで | 荒 田 眞智子 |
父の日や研ぎ減りしるき考の鎌 | 秋 葉 晴 耕 |
蟾蜍(ひきがえる)飛騨の無住寺山を負ふ | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
丹沢の渡渉にわらぢ山開き | 青 木 久仁女 |
あぢさゐの花少なきを詫びられて | 太 田 硯 星 |
山麓に雲流れ来し桷(ずみ)の花 | 山 元 誠 |
朝風やビルの谷間の早苗田に | 成 重 佐伊子 |
ストローに軽く手を添ふ青葉風 | 菅 野 桂 子 |
夫遺せしさつき満開なべて供花 | 脇 坂 琉美子 |
箱釣を探して父の肩ぐるま | 明 官 雅 子 |
さみだれや背中をつたふ聴診器 | 二 俣 れい子 |
小憩は紫蘭の丈の風うけて | 岡 田 康 裕 |
時の日の夕日ゆつたり沈みけり | 小 澤 美 子 |
五月闇一輪挿しの白き花 | 北 見 美智子 |
片陰を拾うて来しがここまでと | 野 村 邦 翠 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
墨痕は筆で書いた墨の跡、その勢いが表面にあふれ出たのが墨痕淋漓。「緑と」の格助詞「と」は幾つか用法があるが、ここでは内容を示すもの。墨痕が「緑と光る」すなわち「緑となって光る」という。デフォルメ(変形や誇張)表現には違いないが、走り梅雨がもたらす青葉の凝縮が和紙を走る墨に映じているか。風や光線などによる瞬時の煌めきを捉える。
<主宰鑑賞>
快晴のマラソン大会が浮かぶ。応援も多い町を抜けたランナーの目に飛び込んで来る青葉潮。「ランナー迎ふ青葉潮」の擬人法に詩情あり。青葉潮は元来、太平洋側を流れる黒潮をいうが、実際の例句を見ると日本海側でもよく詠まれている。青葉潮という色彩と語感の良さが広く俳人に愛されるか。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
河原か海に通じる荒地か、一メートルを超えて勢いよく茂る青芒の広がりがある。そこに「釣人のみの通ひ径」とは好奇心を搔き立てる。ご自身の「通ひ径」とも取れるが、発見されたものか。その見逃がしそうな小道、そして釣人が目にする水面の輝きや如何に。尖って剣のような青芒の葉を分け入られたか、否や。まさに脱日常の至福の世界への「通ひ径」。
両の手の動くに任せ風炉手前 | 中 島 兎 女 |
見落しの実梅しづかに落ちにけり | 飯 田 静 子 |
松の緑欅のみどり古庭に | 竹 脇 敬一郎 |
回廊を白無垢がゆく梅雨晴間 | 小 林 朝 子 |
枇杷採りの子等の笑顔に声をかけ | 田 村 ゆり子 |
草笛の音色かなしき訛りあり | 久 光 明 |
濃いめかと夏の化粧もコロナ明け | 北 村 優 子 |
青ぐるみ振らば鈴の音こぼれさう | 加 藤 雅 子 |
日向水昭和の頃は木の盥 | 山 口 路 子 |
鉢植に水たつぷりと気象の日 | 畠 山 美 苗 |
雨降りて青葉の息吹庭に満つ | 発 田 悦 造 |
展望塔色とりどりの夏帽子 | 稲 垣 喜 夫 |
渓流や熾火煽りて山女串 | 坪 田 むつ子 |
姉の忌に贈りたきもの薫る風 | 若 林 千 影 |
目のとどく限り植田や試歩コース | 稲 田 政 雄 |
夏帽子鳥取砂丘の二人かな | 越 橋 香代子 |
春宵の路地の地渋や雨上がり | 秋 本 梢 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。