辛夷草紙<49>(令和5年7月)

<草紙49>「 宿坊の草花 」(富南辛夷句会便り)

 立山山麓の芦峅寺にある宿坊「教算坊」を訪れた。芦峅寺には立山禅定の修験者や行者のための宿坊が多く並んでいたが、現在、芦峅寺に残された宿坊は二つ。そのうちの一つが「教算坊」であり、江戸時代後期の創建と考えられている。今は立山博物館の一施設として自由に見学できる。大きな立山杉の木立をはじめ苔や山野草の美しい庭園を散策したり、すぐ近くの雄山神社から流れ来る清浄な気を総身に感じたりできる魅力的な宿坊だ。

 私の目に飛び込んできたのは、池の辺にかすかに揺れている撫子、独活の花、花ぎぼしなどの草花だった。中でも殆ど見ることがなくなった撫子をじっくり見ることができたのが嬉しい。これらの花を見ると子供のころ、この宿坊から近い母の里に泊まりこみ、夏休みを過ごしたことを思い出す。  

  宿坊のなでしこ揺るる静寂かな  康裕  ※撫子の写真は、「四季だより・秋」掲載

 さて、句会だが、この夏は荒梅雨や線状降水帯による被害が伝えられており、「出水」の句が詠まれていたのが印象的だった。そのほかに、星祭、夏座敷、レース、冷素麺、ビールなど、いよいよ夏本番を楽しむ生活の句が多かった。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  雷の遠ざかり行く石明り

  夕立のにごり一すぢ神通峡

  箱の如き庭下駄のあり夏座敷

康裕