五岳集句抄
母の日や母に合はせし小さき旅 | 藤 美 紀 |
駒返る草自転車のサドル上げ | 野 中 多佳子 |
後ろから埋まる寄り合ひ春の雷 | 荒 田 眞智子 |
水温む回廊を拭く襷掛け | 秋 葉 晴 耕 |
これ以上増やさぬと決め菊根分 | 浅 野 義 信 |
啓蟄の虫雨粒を乗り越えて | 太 田 硯 星 |
囀りや早朝ゴルフの余得とも | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
首根っ子摘み出す猫春ごたつ | 青 木 久仁女 |
折りたたみ杖をリュックに花行脚 | 成 重 佐伊子 |
見送りのエンジン音もあたたかし | 菅 野 桂 子 |
教室に子らの数だけ風車 | 脇 坂 琉美子 |
息続くかぎりの色をしやぼん玉 | 明 官 雅 子 |
父の忌や父の徳利に梅一輪 | 二 俣 れい子 |
露天湯の音のひとつに雪しづく | 岡 田 康 裕 |
夫の忌や初音待ちつつ正信偈 | 小 澤 美 子 |
房総の花束届き彼岸寺 | 北 見 美智子 |
声もなく笑む人ばかり春の夢 | 野 村 邦 翠 |
靴音のあとに鍵音春の月 | 杉 本 恵 子 |
手に馴じむ輪島塗箸春深む | 石 黒 順 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
挽肉を捏ねながら一句をものする。身ほとりに句材はある。長引けば手の温みで肉の旨味の元の脂が溶け出してしまう。短時間で行う、集中しての力業である。力の程を案じつつ捏ね終えたが、意外にも力が余っていたのである。寒さも残る「春浅し」という空気感も、いい意味で緊張を与えてくれたか。軽い驚きが嬉しさになって家事や句作に弾みがついた。
<主宰鑑賞>
庭で切った枝もあるが、山道などでは足元に折れた枝がよく散乱している。踏んで折ったりする。中には檜や欅、三叉など弾力を発揮して折れないものもある。掲句の面白さは、枝を折れないでいることを余所に傍らでは地虫がぞろぞろと出て来ていることである。蟻ならば可愛いが蜥蜴だと恐い。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
辺り一帯の開花の遅れか、はたまた自宅の梅だけが遅いのか、いずれにしても冒頭からの「梅遅し」に思いが籠る。「残り野菜で夕仕度」とレシピも豊富な主婦としての料理の腕前が思われる。冬から春にかけての野菜の数々である。残り野菜といえども季節感に富むものばかり。あらためて梅の遅さを残念に思う。残り野菜に隠し味のように季語が潜んでいる。
風花やわが誕生日祝ぐごとし | 水 戸 華 代 |
目の前は菜の花畑バスを待つ | 正 水 多嘉子 |
こともなき道に躓く余寒かな | 斉 藤 由美子 |
やや重き昭和の匙や柚子のジャム | 柳 川 ひとみ |
暮れかかる月は朧を深めつつ | 佐々木 京 子 |
春の闇我が玄関灯近づけり | 小 川 浩 男 |
梅咲いて鈴の音かすか巫女溜り | 三 島 敏 |
蕗の薹帰宅急かせる五時の歌 | 加 藤 友 子 |
石鹼玉吹けば胸中軽くなる | 畠 山 美 苗 |
出し遅れ三日過ぎても雛飾る | 東 堂 圭 子 |
ゲレンデに転び見る空ジェット雲 | 野 間 喜代美 |
春寒や衿元締めて結跏趺坐 | 稲 垣 喜 夫 |
畑打つや畝長ければ前を見ず | 般 林 雅 子 |
ゆつくりと読み継ぐ下巻木の芽雨 | 平 木 美枝子 |
膝いとひ供華にもしたき菊根分 | 島 倉 英 子 |
野岩(やがん)線の訛り聞きつつ山桜 | 髙 田 賴 通 |
風光る園児らのこゑ十重二十重 | 大 井 まゆ子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。