辛夷草紙<59>(令和6年4月)

<草紙59>「楤の芽」(富南辛夷句会便り)

 4月に入るといつも次の句が浮かんでくる。

  楤の芽のニの芽と知りて摘み残す   山元重男

 作者は、この「富南辛夷句会」を平成20年に立ち上げ、平成26年に急逝された方である。山野に自生する楤の木の芽の採取は、頂芽のみが対象で、二の芽、三の芽の側芽は摘まないのがマナーとされる。おいしい「楤の芽」なので、二の芽も摘みたくなる誘惑にかられるのだが、そこはしっかりと摘み残し、山里に住み自然を愛した重男さんらしい句である。私も毎年、楤の芽採りに出かけていたが、熊や猪の出没が度重なるようになってきたので畑に楤の木を2本植えた。今は5、6本に増え、その芽を肴に友人と酌み交わすのを楽しみにしている。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。   

  珠洲の海かぎろひ燕ひるがへる

  蔓かけて共に芽ぐみぬ山桜

  柊の一枝ゆるがし囀れり

康裕