主宰近詠(令和5年8月号)

涼 風

中坪 達哉

自転車に乗るたび夏野一跨ぎ
をちこちの花の名言ひて風涼し
涼風やわれを眺むる雲ひとつ
宝探しとでも云ふやうに草を引く
  祖父はよく研いでをりし
研がねばと思ふ草刈鎌を振る
中庭の逃げぬ蜥蜴にしやがみけり
腰下ろす膝にいつしか子かまきり
稜線も著し玉葱吊し終へ
夕涼やはさむ栞の裏表
枕辺に涼しき月の来てをりぬ