主宰近詠(令和4年3月号)

 翁 の 忌

中坪 達哉

雨戸繰れば胸にとまりぬ冬の蜂
明日あたり枯枝へ飛ぶ山茶花か
痩身に暖房甘く匂ひ来る
雑踏を突つ切る冬も汗かいて
   正座は心落ち着きて
一日に正座いくたび翁の忌
戸口へと懸け大根を巡り行く
すぐ逃げる柚子を引き寄せ湯のぬるし
亡き父母の屈みし背ナや竜の玉
ふくらめる雪が蔵する竜の玉
雪の夜の夢始まりて寝入りけり