五岳集句抄
十株の茶摘み賑はふ住宅地 | 今 村 良 靖 |
葉桜や今日素通りの郵便夫 | 但 田 長 穂 |
梅雨の蝶寝墓に残る遊女の名 | 藤 美 紀 |
桐咲くや袱紗につつむ祝ひのし | 野 中 多佳子 |
磯仏まつりし小屋や夏の雨 | 荒 田 眞智子 |
更衣年相応の力瘤 | 秋 葉 晴 耕 |
電車待つホーム大蛾と灯を分かち | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
一万歩まであとわづか草の花 | 青 木 久仁女 |
若き日の写真は褪せず緑の夜 | 太 田 硯 星 |
みどりの日風受け立てる父祖の山 | 山 元 誠 |
神木の藤よりもらふ雨しづく | 成 重 佐伊子 |
伽羅蕗をとろとろ炊いて夕まぐれ | 菅 野 桂 子 |
洗顔のタオルふんはり薔薇の朝 | 脇 坂 琉美子 |
はつ夏の透明コップ濯ぎをり | 明 官 雅 子 |
郭公や水出し珈琲まだ薄く | 二 俣 れい子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
大概の歳時記は「子供の日」だが、最近の角川書店編では「こどもの日」として載る。語感は異なり、今後はどちらが主となるか。掲句は「肉焼く網」に焦点を絞って、その古びを言うことで家族の来し方にまで思いを広げている。真新しいステンレス製の網を初めて火に掛けた日も遠くなった。お子さんたちとの思い出も焼き付けてきた網の古びの宜しさ。
<主宰鑑賞>
「境内に朝の箒目」はよく目にする光景であり俳人ならば詠まずに居られない。現に多く詠まれる。こうした場合は結びに何を持ってくるかが勝負どころ。ここでは「梅の花」ではなくて「梅太る」で味わいがある。「朝の箒目」の堅い雰囲気から生活実感もあり癒されるような「梅太る」へと結ぶ。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
京都や奈良など各地の甘味処の絵も掲載していただいた今は亡き寺崎杜詩緒さんを思い出す。やはり忘れ傘をクローズアップすることで日和を得た紫陽花のふくよかな毬の重なりも浮かぶ。甘味を堪能して店を出るお客さんの声や足取りも見えて来るようである。傘のことも忘れさせてしまう甘味処、また近いうちに御出で下さいと言うことなのかも知れない。
重版の献本を手にビール飲む | 西 山 秀 夫 |
むしやくしや腹ハンカチ千切るほど噛みて | 般 林 雅 子 |
若者の一人二人の田植かな | 今 井 秀 昭 |
中干しの田を逃れんと蝌蚪二匹 | 石 﨑 和 男 |
館長のひとり背(せな)見せ草むしる | 今 井 久美子 |
庭仕事背ナに毛虫の気配あり | 飯 田 静 子 |
若衆の菖蒲投げ込む総湯かな | 片 山 敦 至 |
栗の花どこへ行きしや縄電車 | 山 森 美津子 |
目の合ふや竿をねぐらの青蛙 | 柳 川 ひとみ |
草引きや腰と折り合ふ小半時 | 田 村 ゆり子 |
鯉跳ねし飛沫に濡るる日傘かな | 高 岡 佳 子 |
口笛を吹いて囀急かす夫 | 北 村 優 子 |
若向きのシャツに着替へて更衣 | 黒 﨑 潔 |
刈草の流れは遅き琵琶湖かな | 畠 山 美 苗 |
籠り居て風鈴一つ増やしけり | 村 田 昇 治 |
茄子をもぐバイクの音は俳誌かな | 廣 田 道 子 |
子等ふたり追ひかける手に夏帽子 | 船 見 慧 子 |