五岳集句抄
遅々として森を抜けざる今日の月 | 今 村 良 靖 |
看取る身に祭囃は遠きもの | 但 田 長 穂 |
月光に鯉浮き上がる薪能 | 藤 美 紀 |
息つめて押す落款や夜半の秋 | 野 中 多佳子 |
セルロイドの針箱いまも夜長妻 | 荒 田 眞智子 |
秋茄子紫紺の水をはじきけり | 秋 葉 晴 耕 |
初百舌鳥の空引き締まる延暦寺 | 浅 野 義 信 |
高林集(一)句抄
神棚の升よりこぼる今年米 | 青 木 久仁女 |
御下がりの秋果の匂ふ箱重し | 太 田 硯 星 |
パットへの気持ちをそぎし赤蜻蛉 | 山 元 誠 |
露天湯へ吾のあとさきに鬼やんま | 成 重 佐伊子 |
さう言へば招かれもせず敬老日 | 菅 野 桂 子 |
大根蒔く風に吾が身を盾として | 脇 坂 琉美子 |
高林集(二)句抄
主宰鑑賞
稲刈の傍題の稲刈機、 その延長としてのコンバイン。 稲専用ではないと歳時記にはないが、 コンバインは米どころの秋の象徴的存在。 掲句は田の隅に墓が一つ、 あるいは墓苑が隣接する光景。 コンバインが唸って迫り来るだけでも迫力がある。 それが 「墓の間際まで」 とは彼の世までも震撼させるような響きである。 彼岸と此岸はつながっていると改めて思う。
主宰鑑賞
「木の実落つ」 眺めは趣深い。 立ち止まってその音に耳を傾ける。 「はりはりと木の実ふる也檜木笠 子規」 「木の実降る音からからと藪の中 虚子」 など様々に。 「一しきり木の実落ちたる夕日哉 普羅」 はどんな音か。 美智子さんの 「痛さうな音」とは気になるところ。心の内面が表れた音のような。
衆山皆響句抄
主宰鑑賞
郷愁を誘う 「芋の露」 であるが、 今どきの子は露の玉で遊んだりするのであろうか。 伸び伸びと広がる里芋畑を思い浮かべる。 そんな畑に入れば、 数多の大きな葉の、 浮遊して波打つような勢いに圧倒されそうである。 「触れずとも」 「濡らせり」 とは不思議な体験に違いない。 露を操る数多の大きな葉たちの、 してやったり、 という揺らぎが見えるようである。
名月を拝みたるとや姉百歳 | 齊 藤 寿 仙 |
星光る眼閉づれば秋の音 | 長 久 尚 |
見るだけの料理番組秋の昼 | 小野田 裕 司 |
秋うららマスク忘れて戻りけり | 根 田 勝 子 |
茶の花に問うて語りてあきらめて | 山 田 ゆう子 |
度忘れの多き会話や草もみぢ | 長 井 とし子 |
泡立草とマイカー競ふ河川敷 | 永 田 春 子 |
刈田より届く風あり夕餉どき | 永 井 淳 子 |
死ぬほどの恋もなく老ゆ十三夜 | 中 村 玉 水 |
渋柿を吊してみたり異国の地 | 田 村 ゆり子 |
見守り隊熊鈴付けて子らを待つ | 加 藤 友 子 |
風音のかむさりにけり虫時雨 | 畠 山 美 苗 |
秋の暮スマホの中の子に触れて | 野 間 喜代美 |
虫の音に辿る雪洞(ぼんぼり)薬師堂 | 内 田 邦 夫 |
袋には訳ありとあるリンゴかな | 中 川 正 次 |
さりげなく席立ちて見る秋夕焼 | 荒 井 美百合 |
ライオンの檻の岩間に草の花 | 広 田 道 子 |