辛夷草紙<60>(令和6年5月)

<草紙60>「常願寺川豊水橋」(富南辛夷句会便り)

 北アルプスの「北ノ俣岳(標高2661m)」に発し、富山湾までの56kmを一気に下る急流の常願寺川は「日本一の暴れ川」と呼ばれ、度重なる氾濫の歴史が刻まれている。古来より、その氾濫防止のための知恵と技術を結集してきた堤防等の構造物は、今もなおアップデートを繰り返している。その一つ、「豊水橋(ほうすいはし)」と呼ばれている左岸連絡水路橋はアーチのデザインが美しく山々の景観に溶け込んでいる。

 現在の常願寺川は、農業用水としても利用され、山を下りてきたところにある「頭首工」で取水される。その水は右岸を進むが、すぐに左岸へも流れるように左岸連絡水路橋が設けられている。この水路橋が「豊水橋」であり、氾濫に苦しんできた人々が豊作を願ってそう呼んできたことがよくわかる。

 この橋から見る景はすばらしい。上流を見上げれば、群生する茱萸の木を近景に、遠く残雪の薬師岳が映える。下流に向けば、遥か富山湾へと続く川の流れを見遣ることが出来る。この季節は薫風が心地よい。ゆっくり散策できるので、句作におすすめだ。

 さて、句会だが、草刈、麦の秋、栗の花、郭公、風薫る、夕焼などの夏の句が多くなってきた。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  鯖寄るやあけくれ黄ばむ能登の麦

  むせかへる花栗の香を蝶くぐる

  閑古鳥昨日の楡に来て居たり

康裕