五岳集句抄
| 磴長し脛にまつはる梅雨の蝶 | 藤   美 紀 | 
| 小豆煮る雨風つのる入彼岸 | 野 中 多佳子 | 
| 学生となりし娘も来てさくらかな | 荒 田 眞智子 | 
| 貼り薬はりて鍬振る万愚節 | 秋 葉 晴 耕 | 
| 暮れ際を明々と散る花辛夷 | 浅 野 義 信 | 
| 下萌や踏み出す方は風が決め | 太 田 硯 星 | 
| 蒼天を指さすものに花辛夷 | 山 元   誠 | 
青嶺集句抄
| 里山の名のなき小川花筏 | 青 木 久仁女 | 
 
| くづれたる石垣へ散る桃の花 | 成 重 佐伊子 | 
| 乗り込んで席を詰め合ふ花疲 | 菅 野 桂 子 | 
| 珈琲に垂らすブランデー春独り | 脇 坂 琉美子 | 
| 石鹼玉離れたがらぬ日暮かな | 明 官 雅 子 | 
| 桃の花風入れに行く叔母の家 | 二 俣 れい子 | 
| 猫車きしみし畦の下萌えて | 岡 田 康 裕 | 
| 田楽の決め手は味噌の焦がしやう | 小 澤 美 子 | 
| 境内に洩れくるお経花満ちて | 北 見 美智子 | 
| 図書館へ急ぐ手櫛や風光る | 野 村 邦 翠 | 
| 今日のこと明日にまはして鳥雲に | 杉 本 恵 子 | 
| 立山の水吸ふ蝶の白きこと | 石 黒 順 子 | 
高林集句抄
  <主宰鑑賞> 
 一読、山口青邨が「雑草園」と呼び「只一つの贅沢」と語った庭のことを思う。「散り溜まった落葉はあえて掃くことをせず」とした青邨の美意識に通じるものが、掲句にもうかがえようか。庭の雑草の象徴としての犬ふぐりである。ちなみに「犬ふぐり」は正しくは帰化したオオイヌフグリで瑠璃色の花。日本自生の淡紅色のイヌフグリはもう見当たらない。
  <主宰鑑賞> 
 大型店の立地で少なくなった肉屋、それが今も地域に根付いているようで嬉しい。「歌謡ショーのビラ」がごく自然な感じで置かれているのも、商売のみならず地域社会の拠点の一つとなっていることの具体的事例。冒頭での「うららかや」の詠嘆が、この肉屋さん界隈の和んだ雰囲気を伝えてくれる。  
衆山皆響句抄
  <主宰鑑賞>
 玲子さんには書家としての句がある。幾つか挙げると「夕立の通り過ぎしか臨書して」「筆執れば秒針近く秋深し」「雨畑の陸きらめいて筆始」など。雨畑(あまはた)とは良質な硯である甲州雨畑硯の略称。筆も各種取り揃えて数が多いことであろう。より立体感と奥深さをもたらす掠れの追求、それに適う筆選び。のどかな「春の昼」の過ごし方も色々、墨の香も芳しく。
| 山笑ふ地震の傷痕そのままに | 仕 切 義 宣 | 
| 校庭の桜揺さぶりローカル線 | 中 村 伸 子 | 
| 春の宵思ひ出す人みな笑顔 | 紺 谷 郁 子 | 
| 病床の写経の時間花ぐもり | 村 田 あさ女 | 
| クラス会桜前線はづしをり | 田 村 ゆり子 | 
| 思ひ出の石段を下りつくし摘む | 寺 崎 和 美 | 
| 春昴空の明るさ剝がしたき | 民 谷 ふみ子 | 
| 百周年祝ふが如く桜咲く | 北 川 直 子 | 
| 参道の光集める春の泥 | 松 田 敦 子 | 
| 一病を託つ月日や麦青む | 寺   沙千子 | 
| 知らぬ子に時間きかれて豆の花 | 小野田 裕 司 | 
| 青き踏む防災チャイム澄みわたり | 飯 田 静 子 | 
| ひとり居の寂しさ紛らすよもぎ摘み | 坂 東 国 香 | 
| 除雪車の残る構内春夕焼 | 片 山 敦 至 | 
| 遅き日の布織る舟の澱みなし | 長 山 孝 文 | 
| 歯の治療外は春色子らの声 | 近 藤 令 子 | 
| 古墳とは気づかぬ丘や菫草 | 土 肥 芥 舟 | 
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。