五岳集句抄
祓い待つ蜑の着ぶくれ膝頭 | 藤 美 紀 |
回廊の風直角に冬の声 | 野 中 多佳子 |
ワイパーの一掃き丸し雪さびし | 荒 田 眞智子 |
垣刈りの音を刻みし師走かな | 秋 葉 晴 耕 |
落葉踏み鞄の中に形見分け | 浅 野 義 信 |
この後は芒の穂絮飛ぶ方へ | 太 田 硯 星 |
ボール舞ふ赤城颪の吹く日には | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
納骨日眠りの浅き山の峰 | 青 木 久仁女 |
放棄田ふえて村中草紅葉 | 成 重 佐伊子 |
声かけてみたくなりしや七五三 | 菅 野 桂 子 |
戸口へと走り込みし子霙の香 | 脇 坂 琉美子 |
鯛焼を待つ間に思ひ出す名前 | 明 官 雅 子 |
重ね着の白寿の母の着道楽 | 二 俣 れい子 |
男の子より縄手渡しに雪囲 | 岡 田 康 裕 |
倒木をなだめて歩く冬の山 | 小 澤 美 子 |
小春日の参禅の子等写経かな | 北 見 美智子 |
冬の蜘蛛名前を貰ひベランダに | 野 村 邦 翠 |
年惜しむ夫とは同じ星を見て | 杉 本 恵 子 |
小春日や流離ふやうに古書街へ | 石 黒 順 子 |
また一枚重ね着脱ぎてタイヤ換ふ | 中 島 平 太 |
帯の鈴ぽつくりの鈴七五三 | 浅 尾 京 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
雪吊は実用のみならず景観美。それは個人住宅でも同様であり見栄え良き仕上りとなるように励む一日である。八方に張り巡らす縄といえども捕捉し得ない枝は出てくる。そんな個性を発揮したような枝を「縄を欲しがる」と擬人化するのも現場にあっての実感からであろう。作業も何本かにわたろう。「縄を欲しがる枝またも」と木と心を通わせる作業である。
<主宰鑑賞>
ご自宅でお客を迎えての賑やかな一夜であろうか。冬の食卓に欠かせぬ白菜、それが酒宴と対峙するかのように取り合わされて俳諧味に富んだ一句。かなりの長時間の酒宴か。もう御開きにしてもよいであろう、との思いがうかがえる。「けぢめ」にと白菜の塩揉みを出そう、とは何とも優しい心配り。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
同時投句に「細き足そろへ湯たんぽ添はせけり」「小さき聖樹なれど病室華やげり」がある。母上であり高林集作家の志信さんを看取っての吟かと。点滴の一滴、一滴が聖夜の灯に染まると言うよりも、聖夜の灯を呼び込んでいるような煌めきがある。命ある事の美しさと厳粛さを思わせられる。「病室華やげり」に希望あり一日も早いご回復を祈るばかりである。
山ほどの藤袴活け旅に出る | 山 腰 美佐子 |
初霜に確と踏み出す朝散歩 | 仕 切 義 宣 |
ぶつぶつと煮ゆる大鍋鰤の粗 | 正 水 多嘉子 |
アスファルトに山車の曳きあと後の月 | 中 村 伸 子 |
着膨れず選手と同じ青を着て | 赤 江 有 松 |
熊除け鈴下げる子減りて年用意 | 加 藤 友 子 |
住み古りて地震の仕業か隙間風 | 坂 本 昌 恵 |
冬の野の寂しからうと鳶舞へり | くろせ 行 雲 |
さう言えば母よく言ひし背ナ寒し | 民 谷 ふみ子 |
吟行の濡るるも良けれ朝時雨 | 松 原 暢 子 |
晩秋や余呉湖見たさに遠回り | 中 川 正 次 |
鳶の輪の乱れも少し冬紅葉 | 平 木 丈 子 |
たくあんを親より好むばあちやん子 | 堺 井 洋 子 |
炬燵出す目安は吾の誕生日 | 石 原 朝 子 |
釣竿を海に垂らして日向ぼこ | 北 村 富美子 |
弾くことを忘れしピアノ年の暮 | 善 徳 優 子 |
冬日差し部屋をつきぬけ廊下まで | 西 出 朝 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。