辛夷句抄(令和7年2月号)

五岳集句抄

祓い待つ蜑の着ぶくれ膝頭藤   美 紀
回廊の風直角に冬の声野 中 多佳子
ワイパーの一掃き丸し雪さびし荒 田 眞智子
垣刈りの音を刻みし師走かな秋 葉 晴 耕
落葉踏み鞄の中に形見分け浅 野 義 信
この後は芒の穂絮飛ぶ方へ太 田 硯 星
ボール舞ふ赤城颪の吹く日には山 元   誠

青嶺集句抄

納骨日眠りの浅き山の峰青 木 久仁女
放棄田ふえて村中草紅葉成 重 佐伊子
声かけてみたくなりしや七五三菅 野 桂 子
戸口へと走り込みし子霙の香脇 坂 琉美子
鯛焼を待つ間に思ひ出す名前明 官 雅 子
重ね着の白寿の母の着道楽二 俣 れい子
男の子より縄手渡しに雪囲岡 田 康 裕
倒木をなだめて歩く冬の山小 澤 美 子
小春日の参禅の子等写経かな北 見 美智子
冬の蜘蛛名前を貰ひベランダに野 村 邦 翠
年惜しむ夫とは同じ星を見て杉 本 恵 子
小春日や流離ふやうに古書街へ石 黒 順 子
また一枚重ね着脱ぎてタイヤ換ふ中 島 平 太
帯の鈴ぽつくりの鈴七五三浅 尾 京 子

高林集句抄

雪吊の縄を欲しがる枝またも大 谷 こうき

  <主宰鑑賞> 
 雪吊は実用のみならず景観美。それは個人住宅でも同様であり見栄え良き仕上りとなるように励む一日である。八方に張り巡らす縄といえども捕捉し得ない枝は出てくる。そんな個性を発揮したような枝を「縄を欲しがる」と擬人化するのも現場にあっての実感からであろう。作業も何本かにわたろう。「縄を欲しがる枝またも」と木と心を通わせる作業である。

白菜を揉みて酒宴のけぢめとせん齊 藤 哲 子

  <主宰鑑賞> 
 ご自宅でお客を迎えての賑やかな一夜であろうか。冬の食卓に欠かせぬ白菜、それが酒宴と対峙するかのように取り合わされて俳諧味に富んだ一句。かなりの長時間の酒宴か。もう御開きにしてもよいであろう、との思いがうかがえる。「けぢめ」にと白菜の塩揉みを出そう、とは何とも優しい心配り。
  

衆山皆響句抄

点滴の一滴づつに聖夜の灯漆 間 真由美

  <主宰鑑賞>
 同時投句に「細き足そろへ湯たんぽ添はせけり」「小さき聖樹なれど病室華やげり」がある。母上であり高林集作家の志信さんを看取っての吟かと。点滴の一滴、一滴が聖夜の灯に染まると言うよりも、聖夜の灯を呼び込んでいるような煌めきがある。命ある事の美しさと厳粛さを思わせられる。「病室華やげり」に希望あり一日も早いご回復を祈るばかりである。)

山ほどの藤袴活け旅に出る山 腰 美佐子
初霜に確と踏み出す朝散歩仕 切 義 宣
ぶつぶつと煮ゆる大鍋鰤の粗正 水 多嘉子
アスファルトに山車の曳きあと後の月中 村 伸 子
着膨れず選手と同じ青を着て赤 江 有 松
熊除け鈴下げる子減りて年用意 加 藤 友 子
住み古りて地震の仕業か隙間風坂 本 昌 恵
冬の野の寂しからうと鳶舞へりくろせ 行 雲
さう言えば母よく言ひし背ナ寒し民 谷 ふみ子
吟行の濡るるも良けれ朝時雨松 原 暢 子
晩秋や余呉湖見たさに遠回り中 川 正 次
鳶の輪の乱れも少し冬紅葉平 木 丈 子
たくあんを親より好むばあちやん子堺 井 洋 子
炬燵出す目安は吾の誕生日石 原 朝 子
釣竿を海に垂らして日向ぼこ北 村 富美子
弾くことを忘れしピアノ年の暮善 徳 優 子
冬日差し部屋をつきぬけ廊下まで西 出 朝 子

※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。

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