前田普羅<51>(2025年1月)

< 普羅51 前田普羅の最後の旅:上州へ >

 普羅の最後の旅となった上州での句を、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。

(抜粋p85) 山川の凍れる上の竹の影

 昭和27年2月に普羅は持病の腎臓病が再発、4月には高血圧も重なって進退不能に陥ることとなるが、それに先立つ1月末の上州での作である。普羅にとって生涯最後の旅となったが、そこは上州でも普羅がこよなく愛した吾妻川流域の地の三原や草津などであり、門人たちが親しく来訪を待ってもいた。終焉の地となる東京矢口での住いの悪さや抑えがたい漂泊精神は、体調の悪さをも顧みずに上州への旅へと駆り立てたのであった。結果的にはそれが普羅の寿命を縮めてしまうこととなる。
 『定本普羅句集』のこの句に続く「冴え返る竹緑なりゆれやまず」も、同時作であろう。「山川」とは吾妻川か、あるいは支流の四万川であろうが、一句の世界は背景をなす風物を非情なまでに見事に取り去ったものである。そこには、もう生きものの影も匂いもない、この世の温みなど未来永劫に生れないような恐ろしさもあろう。普羅が愛しやまなかった渓谷の究極の美がそこにはあるのかも知れない。そして、そこに映る「竹の影」のはかなさと美しさ。その影こそ、普羅のいのちの在り様にも似ているように思えてくる。

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