主宰近詠(令和6年7月号)

夏 つ ば め

中坪 達哉

くれなゐのドリップコーヒーさへづれり
籠りをり惜しみなく鳴くうぐひすと
ふるさとの田畑匂へり春の闇
膝に舞ふ蝶に付き行くほかはなく
 二年ぶりに車庫に燕の巣
力なき肩を掠めて夏つばめ
投函に付いて来るとも夏つばめ
風はらむ新緑の森人を吸ふ
緑蔭へ会ひたき人のゐるやうに
仰ぎ抱く一樹を目指す夏野かな
灯を消して薔薇の香りを後にせり