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< 百周年記念特別作品 >
花 野 中 坪 達 哉
| 揚羽蝶渡りて庭の広ごりぬ |
| 千歩ほど走るか次の片陰へ |
| 汗掻いて乾きて掻いて峠道 |
| 一陣の雲に翳るや登山地図 |
| 花野へと踏み出す一歩膝鳴らし |
| うづくまり花野の花にあたたまる |
| 亡き人と擦れ違ひては花野行く |
| 稲架干珍しく 二句 |
| 隠るるによし高稲架の稲の陰 |
| 掛稲の乾きゆく音聞くとなく |
| 立山の見えねど秋明菊の紅 |
| 事務鞄ふくらみたるは富有柿 |
| 書きとどむべきこと多く十三夜 |
| 仕舞湯へ廊下を渡る夜寒かな |
| 家電機器つぎつぎ唸りそぞろ寒 |
| 熊鈴の鳴りやうも若者らしく |
| 椀なりに指うつくしく冬はじめ |
| ちと濡るることも幸とす初しぐれ |
| 蔵の戸の重さ好もし朝時雨 |
| 落葉焚く匂ひ纏ひて小買物 |
| クリスマスツリーに溶け込む幾人か |
|
桜 か く し 野 中 多 佳 子
| 子安仏供華あたらしき春御堂 |
| 木の根開く訪はずじまひに母の里 |
| 風にまだしなふことなき葦の角 |
| かへるさの桜かくしとなりにけり |
| 海桐咲く模糊たる雨の日本海 |
| 奉る朱塗りの桶の氷室雪 |
| 薔薇園の薔薇の百花に惑ふかな |
| 雁なくや介護日誌は書かずとも |
| 木仏彫る夫無心なる鵙の昼 |
| 薄ら日にさくら二輪の帰り花 |
< 百周年記念俳句大会 >
◎ 大 賞 太 田 硯 星
| 花菖蒲風抜くるとき息を吐く |
| 若葉寒大路に出れば尚更に |
| ぼうたんの花には重き人の息 |
| 齟齬のまま笑まひ閉ぢたる夏扇 |
| 聖樹まだ点らぬうちは心に灯 |
| ありありと考妣の言冬座敷 |
◎ 準大賞 二 俣 れ い 子
| 更衣今年の風に肘さらし |
| 遠郭公背もたれのなき主婦の椅子 |
| 星の夜の寝言のやうな蟬の声 |
| 縁涼み娘いつしか聞き上手 |
| 手を振つて日傘ひらかぬ別れかな |
| 母からの鍋を焦がせり夏の果て |
◎ 準大賞 野 村 邦 翠
| 緑蔭に膝撫でてまた歩き出す |
| 裏庭を抜け道として揚羽蝶 |
| 曝書せぬ父の辞典の重さかな |
| 墓参り畦草踏んで靴濡らし |
| 厨の灯につぶやくやうに夜の蝉 |
| 数多なる彫像を見て秋澄めり |
< 百周年記念俳句大会 当日句会 >
| 主 宰 吟 | 青嵐歩みととのふ百歩かな | 中坪 達哉 |
| 主宰選天位 | 乗りかへて降りれば一人麦の秋 | 松田 敦子 |
| 主宰選地位 | 大瑠璃や輪島の海の色曳きて | 石黒 順子 |
| 母知らで永らへし世や華鬘草 | 山藤 登 |
| 主宰選人位 | 手に取りて戻して石の夏めきぬ | 永井 宏子 |
| 物干の際まで代田迫りけり | 川田 五市 |
| 夏燕うれしきことの二つ三つ | 大井まゆ子 |
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