前田普羅<44>(2024年6月)

< 普羅44《海の詩人》前田普羅の地貌句「能登恋い」③>

 美しい能登の海を詠んだ普羅の句を、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。

(抜粋p99) 梅雨の海静かに岩をぬらしけり

 普羅が好んで染筆とした句の一つである。輪島での句会で発表された句だが、輪島を詠んだものと狭く解する必要はない。句の情趣としては、能登半島東海岸の富山湾に向く波の穏やかな内浦の風光に適うものがある。
 普羅にとって未知の地であったころの能登のイメージは、明治末に横浜の松浦為王が詠んだ〈木枯や捨て身に能登を徘徊し〉にあるような荒涼たるものであった。
 が、実際に能登を廻ってみて普羅の能登に対する思いは一変した。それは、句集名を『能登蒼し』としたことでも明らかであろうし、その序文で「捨身で徘徊しなければならない能登の荒涼さを、私は終に見ることが出来なかつた、且つまたその西北風が物凄いとは云へ、能登の東側では絶対に捨身になる程の事もないのだ」とまで言わしめた。
 普羅といえば山岳俳句のイメージが定着しているが、普羅俳句の懐は深い。普羅の地貌を見る眼は海洋にも及んだ。普羅はまた海の詩人でもあった。

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