主宰近詠(令和5年11月号)

鵙 の こ ゑ

中坪 達哉

閻魔参とは云へぬなり覗くのみ
わが胸を打ち落蝉となりにけり
古びたる板壁匂ふ地蔵盆
  有峰 二句
身の内も森の緑に染まらんと
二つ三つ野葡萄食うて藪漕ぎか
  上京
家を発つ切り火打つかに鵙のこゑ
  牧野記念庭園 三句
若き日の足取り思ふ秋草に
木漏れ日に照らされもして秋の蚊は
藪蘭にいつまで屈みゐることよ
澄む水を揺らして老いをうやむやに