五岳集句抄
相乗りに絵日傘ひとつ渡し舟 | 藤 美 紀 |
咲きのぼる凌霄映す道路鏡 | 野 中 多佳子 |
一卓は男子高生シャーベット | 荒 田 眞智子 |
草原の先頭を行く捕虫網 | 秋 葉 晴 耕 |
風強きひと日の畳毛虫這ふ | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
今日夏至の雨膝に当てマイクロ波 | 青 木 久仁女 |
妻の留守三日茄子漬底をつく | 太 田 硯 星 |
水無月の湖(みず)の色変へ榛名山 | 山 元 誠 |
漬物の石によきかな蟻が這ふ | 成 重 佐伊子 |
撥ね返す楓のしづく鴨足草 | 菅 野 桂 子 |
川の灯と夜気のささやき床料理 | 脇 坂 琉美子 |
切る度にパイナップルの黄色濃く | 明 官 雅 子 |
夏帽を飛ばし兄追ふ三輪車 | 二 俣 れい子 |
座敷掃く補聴器ひろふは遠雷か | 岡 田 康 裕 |
ガラスづくめに白磁一点夏料理 | 小 澤 美 子 |
それぞれの鉢の花色蓮かをる | 北 見 美智子 |
赤紫蘇の染みたる手なり受話器取る | 野 村 邦 翠 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
豆飯と言えばやはりグリーンピースを炊き込んだものを思う。さっぱりとした塩味のよろしさが初夏の気分にも叶う。故人も豆飯がお好きであったのであろう。思い出に浸りながら、在りし日のごとくに豆飯を炊くのである。となれば「家中に豆飯匂ふ」とは、何よりの豪勢なお供えと言えようか。上々の味ながらも、やや作り過ぎたかとの微苦笑もあろうか。
<主宰鑑賞>
安土桃山から江戸期の天才絵師・長谷川等伯、生れは能登の国、七尾。等伯像は各地にあるようだが、七尾駅や七尾マリンパークにある右手で笠を少し持ち上げて遠くを望む、京都への旅立ちをイメージした等伯像を思う。折からの潮風に「夏帽を押さへて仰ぐ」姿が等伯像と重なって微笑ましい。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
縫物の手を止めて針を置く。それが「雀の巣立つ羽音」であるところに引かれる。季語としては「雀の巣」「巣立鳥」があり、巣立ちのあとは「雀の子」となる。これらより先立つ「孕雀」「雀の卵」から見守っていた日々が思われる。雀は身近な存在だが、巣作りは警戒心が強く人目には触れにくい。孕みから巣立ちまで雀を飼っているような心地であったか。
昼寝覚屋敷林(かいにょ)匂へる風浴びて | 藤 井 哲 尾 |
寝ねがてに書き足す日記熱帯魚 | 川 田 五 市 |
日傘さす人皆美(は)しき歩みかな | 武 内 稔 |
雨蛙にフレイルチエック復唱す | 島 美智子 |
水打つて水百選の町に住む | 倉 島 三惠子 |
こだはりは角を壊さぬ冷奴 | 佐々木 京 子 |
サーファーの腰低くして波光る | 高 岡 佳 子 |
梅雨入や美(は)しき雨音聞きたきと | 中 林 文 夫 |
今年またこれが最後と簀戸入れて | 犬 島 荘一郎 |
寝つかれぬ闇に安らぐ蚊遣かな | 大 代 次 郎 |
後継ぎのありて名物心太 | 上 杉 きよみ |
鬣(たてがみ)の濡れし愛馬やくだり吹く | 澤 田 宏 |
超然と噴水おのが時刻む | 佐 山 久見子 |
てきぱきと車庫の中にも水を打つ | 岡 田 杜詩夫 |
道の駅空くじなしと茄子もらひ | 今 井 久美子 |
五月闇解体庁舎の匂ひかな | 早 水 淑 子 |
万緑や御神木抱き深呼吸 | 小 川 正 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。