主宰近詠(令和5年2月号)

小 夜 時 雨

中坪 達哉

柿を干す高層ビルのまた増えて
一枚の皮の鉄壁熟柿かな
こそばゆき雨音を待つ小夜時雨
踏む音も落葉明かりの庭巡る
日の匂ふ落葉や栗鼠も喰ひさうな
   鳥も人を見に
日の差して窓辺に今日は尉鶲
笑むことも一善なるか蕎麦湯吸ふ
雪垣の父祖の柱や黒ずんで
冬座敷胡坐をかけば武者めきて
炭継げば祖父の匂ひといふものを