辛夷草紙<33>(令和4年5月)

<草紙33>「古本が好き」 

 『俳句文学全集 高浜虚子編』を開いている。奥付に著作者:高浜虚子 発行所:「第一書房」(昭和12年9月5日発行 予約価1円50銭)とある。いわゆる古本である。これは友人から譲ってもらったものだ。

 この春は彼岸になっても肌寒い日が続いていたが、「元気ですか。俳句の本をいくつか送ろうと思って……」と、突然東京の友人から電話があった。驚く私に、彼は懐かしい声で「今、能生の家に来ているのだけれど、住所は富山のどこだっけ?」と続けた。「それでは、明日そっちに行く」と私は即答。翌日は、久しぶりに県境を越えて車を走らせた。彼は、骨董(古美術)収集が趣味。東京の自宅が収集品で手狭となり、糸魚川近くの能生に別荘を購入し、収集品を収納している。私を俳人として憶えていてくれて、骨董品収集に併せて俳句の本も収集してくれていたのが、嬉しい。

 私は、自分でも数年前から通販で古本を購入するようになった。安価であり、なおかつ限定出版のため部数が少ない句集でも古本なら手に入れやすい。そして何より古本屋に出かけなくとも、二、三日後には手元に届く。一旦、この便利さを味わったら、読みたいと思った句集や俳句関係図書は、ついパソコンで購入してしまう。古本のシミやヤケ、匂いも気にならない。とにかく早く読みたいのだ。

 では『俳句文学全集 高浜虚子編』の、今読んでいる5月の章から二句。

   雨雲の下りては包む牡丹かな(大正7年)

   人垣のどよみ撓むや荒神輿(大正12年)

康裕