五岳集句抄
| どの墓もほどよき飾り花吹雪 | 今 村 良 靖 | 
| 枝ぶりを見て敷き直す花見茣蓙 | 但 田 長 穂 | 
   
| ひろびろと橋架け替はる春の月 | 藤   美 紀 | 
| 老い母の昔語りや花蘇枋 | 野 中 多佳子 | 
| 子の声にお玉杓子の尾が回る | 荒 田 眞智子 | 
| 草を嗅ぐ犬の鼻先蝶生る | 秋 葉 晴 耕 | 
| 蛇穴を出づれば区画整理道 | 浅 野 義 信 | 
青嶺集句抄
| 春愁や身体あづけて太柱 | 青 木 久仁女 | 
	  
| 人去りぬ桜と話することに | 太 田 硯 星 | 
| 新たなる思ひ隠せず花ミモザ | 山 元   誠 | 
| 風に蹤(つ)く一人吟行花の土手 | 成 重 佐伊子 | 
| ふらここや励ましに似て軋む音 | 菅 野 桂 子 | 
| よきことは母へ真つ先桃の花 | 脇 坂 琉美子 | 
| 小引出し父の薬と花種と | 明 官 雅 子 | 
| 雨垂れのときをり乱る春憂ひ | 二 俣 れい子 | 
高林集句抄
  <主宰鑑賞> 
 快い「春眠」の中での「春の夢」。どこか非現実的で妖しいような世界にいざなわれても、そこには春らしい華やいだ情感があろう。そんな夢から現実へと戻る意識の変化を、昆虫の羽化にも似た思いになるとは瑞々しい感性である。暑中での疲労回復が叶ったか否かという「昼寝覚」とは異なった感覚である。暫し昆虫の生態に自らを重ねて見るのも面白い。
  <主宰鑑賞> 
 否(いや)が応でも、きつい勾配を意識せざるを得ない坂道を一歩一歩登る。春日傘は後方へ傾いてもいようか。軽い春日傘も次第に持ち重りしよう。いっその事、畳んで仕舞いたいが紫外線も怖い。ようよう登り切った平坦地、息も整って歩む背筋も伸びる。それを「春日傘立て直す」とは言い得て妙。  
衆山皆響句抄
  <主宰鑑賞>
 ガーデニングという表現が増えてきたので「庭弄り」が懐かしいような響きである。注目すべきは「あたたかし」の気持よさが、頭上に迫る鳶にまで及んでいることである。影には姿や形の意味もあるが、ここは庭土に色濃く映る鳶の羽根を広げた大きな影であろう。それが恐怖の対象とはならずに「鳶の影さへあたたかし」とは鳥獣への親近感の為せる技か。
| 青饅をためす舌先児の真顔 | 加 藤 雅 子 | 
| フラッグ揺れ番手を上げむ花吹雪 | 新 井 のぶ子 | 
| ワイシャツも野良着に下ろし春始む | 釜 谷 春 雄 | 
| 鳶の巣を見上げ登れば富山湾 | 吉 田 秀 子 | 
| 春深し歌ひて痛み和らげむ | 上 杉 きよみ | 
| 満開の桜と渡る歩道橋 | 内 田 邦 夫 | 
| 退職の花束置ける車窓かな | 中 川 正 次 | 
| 蕗味噌のすつかり奥に忘れられ | 小野田 裕 司 | 
| 囀りに童謡歌ふ厨かな | 坂 東 国 香 | 
| 畑打つや植うる野菜を迷ひつつ | 水 戸 華 代 | 
| 畑を打つ翁の四肢の揺るぎなき | 仕 切 義 宣 | 
| 水戸口は蝌蚪だまりかな追ひもせず | 大 和   斉 | 
| 受け取るは百合と見まがふチューリップ | 島   美智子 | 
| 老犬の見上ぐる気なし花の下 | 勝 守 征 夫 | 
| 気まぐれに測る血圧春の宵 | 相 川 道 子 | 
| 風鈴の鳴るやそろそろ夕支度 | 杉 田 冨士子 | 
| 膝ついて風の声聞き野蒜掘る | 廣 田 道 子 |