五岳集句抄
| 鎌倉や手斧始の檜の香 | 藤 美 紀 |
| 畑仕舞冬菊乱れたるままに | 野 中 多佳子 |
| 時雨雲しぐれぬままに流れゆき | 荒 田 眞智子 |
| ゆふされば光りありけり葱の肌 | 秋 葉 晴 耕 |
| 本棚の匂ひの中を冬ぬくし | 浅 野 義 信 |
| ふくら雀の貌見て今日の始まりぬ | 太 田 硯 星 |
| 冬めきし景色も若き足取りで | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
| 刺す気なくうなじに寄りし冬蚊かな | 青 木 久仁女 |
| 銭湯の無料の日なり暮早し | 成 重 佐伊子 |
| 木を揺すり落葉さそひて落葉掻く | 菅 野 桂 子 |
| 暮早し鐘撞くたびに暗みゆく | 脇 坂 琉美子 |
| 鳥籠の水浴びの音小六月 | 明 官 雅 子 |
| 初雪や勝手口にも長靴を | 二 俣 れい子 |
| 縄かける仕舞の一樹明日は雪 | 岡 田 康 裕 |
| 境内に電飾飾り紅葉散る | 北 見 美智子 |
| 音すれば柿の木を見る熊怖し | 野 村 邦 翠 |
| 大根引く力入らぬ腰なれど | 杉 本 恵 子 |
| 時雨るるやそろそろ味噌の尽きる頃 | 石 黒 順 子 |
| 痒さ言ふ母の背撫づる雪催 | 中 島 平 太 |
| 耳鳴りも空腹も忘れ毛糸編む | 浅 尾 京 子 |
| 冬うらら百寿の姉のと見かう見 | 大 谷 こうき |
| 湯気上げて小川流るる冬菜畑 | 寺 田 嶺 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
わが国は超高齢化社会、百歳以上の人口が十万人に達するかという状況である。実年齢に対する健康年齢の若返り、いわゆる美しく老いることこそ肝要。それを実践したかのような「百歳のやはらかき手」に触れたのであろう。小春日和を象徴するような手の柔らかさに感動しつつ励まされもしたか。底力を秘めた柔らかさ、寄る者に優しさと元気を与えるかと。
<主宰鑑賞>
人違いをしたり、されたりすることはままある。どういう時にそうなるのだろうか。この句では冬日和とある。冬とは思われない穏やかに晴れた日の、何かしら心弾んだような思いが人に対する親近感を増すのであろうか。人違いの挨拶に終わらずに道連れになったとは面白い。あたかも友の如しか。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
一読、ただならぬ気配に驚く。通信欄には持病があって九日間、緊急入院したとある。救急車で搬送される身ながらも「我が名飛び交ふ救急車」と冷徹に自らを写生するは、俳人の俳人たる所以、お見事である。冒頭の「冬ざれや」も「冬になれば」という意味を超えて冬場の荒(すさ)んだ空気感を強調する響きがあって緊張感を伝える。順調に回復ともあって安堵。
| 障子の穴増えてはをれど母達者 | 山 腰 美佐子 |
| 年忘れほろ酔ひいよよらふたけて | 馬 瀬 和 子 |
| 朝寒や柱時計の螺子を巻く | 北 村 優 子 |
| 裸木となりし桜に陽のやさし | 中 林 文 夫 |
| 秋寂し箒の残す塵ひとすぢ | 畠 山 美 苗 |
| 畑仕舞ひ末生り集め胡麻和へに | 野 間 喜代美 |
| 冬の雷知りて来し方五十余年 | 多 賀 紀代子 |
| パーティの会場までは着ぶくれて | 若 林 千 影 |
| 山茶花や体操帰りの声弾む | 平 木 美枝子 |
| 枯芙蓉垣根の端にいぢけをり | 八 田 尚 子 |
| ステージの第九の友を見つけんと | 正 水 多嘉子 |
| 霧の中より妻十歳は若きこゑ | 久 光 明 |
| 小魚のまとめて売られゆく寒さ | 岩 﨑 純 子 |
| 来ぬままに次のバス待つ小春かな | 大 井 まゆ子 |
| 時雨雲母も素直になれぬ日よ | 池 田 衣 舞 |
| 陽の落ちてたちまち寒し通学路 | 鉾 根 美代志 |
| 着ぶくれし母をせかせて朝餉かな | 政 智佳子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。