五岳集句抄
黒塚にシテの鬼舞ふ十三夜 | 藤 美 紀 |
秋暑しパンク自転車引きし子よ | 野 中 多佳子 |
秋天や胸張つてこそ見ゆるもの | 荒 田 眞智子 |
自づから輪になる昼餉草紅葉 | 秋 葉 晴 耕 |
啄木鳥の穴深々と枯木立つ | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
内の子になる朝顔の種もらふ | 青 木 久仁女 |
交渉の止む間知りたる虫のこゑ | 太 田 硯 星 |
曼殊沙華ひと月遅れの墓参り | 山 元 誠 |
葬送の軒に色増す唐辛子 | 成 重 佐伊子 |
鳳仙花はぜよと如雨露手に持つて | 菅 野 桂 子 |
きびきびと働く手あり秋晴るる | 脇 坂 琉美子 |
爽やかやシェアサイクル出払ひて | 明 官 雅 子 |
針替へて通す白糸昼の虫 | 二 俣 れい子 |
籾殻焼く匂ひに一夜浅眠り | 岡 田 康 裕 |
路面電車カーブ大きく秋の空 | 小 澤 美 子 |
小鳥来る果物匂ふ朝の卓 | 北 見 美智子 |
色淡き茗荷の花を夫に見す | 野 村 邦 翠 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
いかにも秋らしい季節感を象徴する赤とんぼ、基本的には田舎を想わせよう。それだけに「都会の赤とんぼ」そして「すぐ逃げて」という観点に注目した。ビル街の日向、日陰の差は大きく、餌も少なかろう。そんな棲息環境ではより俊敏な動きが必要か。直ぐに逃げるという把握は言い得て妙かと。見てみたい都会の赤とんぼ。赤とんぼを詠んで異色な一句。
<主宰鑑賞>
ゴーヤーの名でも親しい苦瓜。沖縄の郷土料理であったゴーヤーチャンプルーも全国的に普及。緑のカーテンも美しい棚で結ぶ苦瓜の実は順調に育って赤らんで来た。それに比べてわが心の何とぐずぐずしていることか、との嘆きが一句となった。本音を吐けばどうなるか、今少し自問自答が続く。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
季節の賜物として新米を手にする喜びは格別のものがある。新米は視覚、聴覚、臭覚、触覚の切り口から色々な所作が句となってきた。新米を磨ぐ云々の句も多いが、ここでは「てのひらに」そして「指に」と新米の質感、量感を畳み掛けるように皮膚感覚で伝えてくれる。水に浸かる前と後での新米の変化も言わずもがな。新米を磨いで心も弾んでくる良き日。
数多なる虫と住みゐて虫を見ず | 水 上 玲 子 |
ここかしこ交はす鈴の音茸狩 | 坂 本 善 成 |
秋草を活けて微かに日の匂ひ | 斉 藤 由美子 |
籾摺りを終へて疲労は安堵へと | 柳 川 ひとみ |
秋の声止みたれば窓閉めにけり | 田 村 ゆり子 |
わが影も吹かるる風の花野かな | 久 光 明 |
秋風に吹かれもろもろ忘れけり | 馬 瀬 和 子 |
騎馬戦の馬の周りを秋茜 | 清 水 進 |
秋風鈴仕舞ひ忘れてなどをらず | 村 田 昇 治 |
障子貼る桟の傷みをかばひつつ | 川 渕 田鶴子 |
石畳阿形呍形秋の風 | 内 田 邦 夫 |
吾が一句口遊みゆく野菊晴 | 寺 沙千子 |
秋草の庭へ隣の子のボール | 島 田 一 子 |
茸飯多目に炊いて足りぬとは | 堺 井 洋 子 |
空つぽのバスのミラーに赤蜻蛉 | 小 林 朝 子 |
晩秋や海鳴り近き宿に着く | 鉾 根 美代志 |
掛稲のそばで一服雲流れ | 秋 本 梢 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。