辛夷草紙<38>(令和4年9月)

<草紙38>「茗荷 」(富南辛夷句会便り) 

 富山市の南東部(旧大山町)では、7月から9月にかけて茗荷が採れる。今も各家庭で栽培され、味噌汁の具材や薬味、味噌漬け、甘酢漬けなど、さまざまな料理に重宝されている。特に小佐波地区で採れる茗荷は、富山県を代表する伝統野菜だ。鮮やかなピンク色をしており、香りがよく、シャキシャキとした食感が特徴。この茗荷を使った伝統料理の茗荷寿しは、祭事の際のご馳走だ。炊きたてのご飯で作った酢飯に、茗荷と鱒のほぐし身を混ぜ合わせ、できたてを茶碗によそって食べる。その後、手軽に食べられる笹に包んだ押し寿しの『みょうが寿し』が生み出され、ハレの日以外にも食されている。

 ところで、歳時記では、茗荷を季語としたものに「茗荷の子」「茗荷の花」がある。「茗荷の子」は地下茎から頭を出す赤紫色の花穂。その花穂が淡黄色の花をつけると「茗荷の花」。一般には「茗荷の子」のことを茗荷と呼んでいる。

 さて、投句の季語は、台風、稲刈、秋刀魚、秋蚊、蟋蟀、虫、曼珠沙華、秋茗荷、花梨の実、落鮎、熊棚など。この中の「熊棚(熊の棚)」だが、「熊栗架を搔く(くまくりだなをかく)」の傍題で、「栗棚」「熊の栗棚」もある。熊が木に登り、一つところに坐って木の実を毟って食べた跡だ。その時の、熊が枝を折って敷き重ねた座布団のようなものを頭上に見るのは、興味深くもあるが怖く、危険だ。山中でないと見られない珍しいものだが、今年は、里山に足を踏み入れると、あちこちに見られるという。もう熊が近くまで来ている。今年の山の木の実の成り具合が心配だ。

 投句のあった季語に合わせて前田普羅の句を二句。

  煮えあがる月の竈の茗荷汁

  親子して一握りづつ花茗荷

康裕