五岳集句抄
神杉の瘤つやゝかに秋に入る | 今 村 良 靖 |
放たれて牛点となる雲の峯 | 藤 美 紀 |
生身魂聞えぬことにもうなづいて | 野 中 多佳子 |
青空の奥の奥まで盛夏かな | 荒 田 眞智子 |
夕焼や明日の農具の下揃へ | 秋 葉 晴 耕 |
二上山の草をしをりに立秋忌 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
リハビリと思ひし坂や夏落葉 | 青 木 久仁女 |
夕涼や話し合ひやや負けてやり | 太 田 硯 星 |
雲海の波間漂ふ命とも | 山 元 誠 |
六月やひとつ灸の先頭に | 成 重 佐伊子 |
まだ一人顔は見えねど墓詣 | 菅 野 桂 子 |
二歩で足る踏切ひとつ風は秋 | 脇 坂 琉美子 |
ソフトクリーム話の行方うやむやに | 明 官 雅 子 |
老犬と鼻寄せ話す帰省の子 | 二 俣 れい子 |
どの音も丸く聞こゆる遠花火 | 岡 田 康 裕 |
ためらひて払ふ蜘蛛の囲空動く | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
「抜手」は「泳ぎ」の傍題。古来よりの泳法の一つで、水を掻いた手を肘を曲げて水面上に抜き出す。平泳ぎやクロールが普及する前の泳ぎで、頭を沈めないから「低く舞ふ鳶」と目も合うような緊張状態にある。鳶が狙うものは何か。「横目に」には余裕も感じるが、泳ぐ蛇を襲う鳶の姿が脳裏に去来したりして恐怖感もあろう。鳶が次第に大きく見えて来る。
<主宰鑑賞>
絵解きといえば地獄絵などの宗教的絵画の説明が浮かぶ。絵解僧とあるからボランティアではなくて絵図を掲げる寺僧自らの解説である。分かりやすくユーモアのある語りで人気が高いお坊さんも。「マイクの要らぬ」通る声に涼風も程よく耳を傾ける。来て良かったと思う脱日常の一時が描かれた。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
「夕焼けて囲む食卓」が印象的であり絵画的な華やぎがある。食卓に並ぶ色々なおかず。栄養と見た目にも美味しそうな盛り付けは主婦の腕の見せ所である。黄金色の夕日は望めるのであろうか。それにしても食卓と家族を染め止まない夕焼の、その茜色の美しいこと。まさに造化の妙と言うべきか。別世界へいざなうような「ディナーめく」眺めなのである。
小憩にはや片蔭の移りゆく | 橋 本 しげこ |
掃苔や熊避けの鈴腰に下げ | 加 藤 友 子 |
誰か来よ色よく漬かる小茄子盛り | 坂 本 昌 恵 |
見守りを終へし額に青田風 | 清 水 進 |
秋天や鉄の谺の造船所 | 畠 山 美 苗 |
娘の指せし初秋の空やあをあをと | 久 郷 眞知子 |
百年の旅の糧なる昼寝かな | 大 池 國 介 |
夏雲を近しと仰ぐ赤信号 | 村 田 昇 治 |
普羅塚に木斛の花過ぎ易し | 川 田 五 市 |
熱き茶を頼みに老いの夏を生く | 出 村 禮 子 |
砺波野の広さが見ゆる遠花火 | 山 田 ゆう子 |
久々の山車の軋みや大路照る | 正 水 多嘉子 |
向日葵の貌にも個性耀きて | 廣 木 とも子 |
立ち寄りのスーパーで秋探しをり | 荒 井 美百合 |
夏帽子隠し弔問の列に入る | 粟 田 房 穂 |
洪水の中を朝顔揺れて咲く | 佐 渡 稚 春 |
潮騒にはや咲きそめし女郎花 | 秋 本 梢 |