辛夷草紙<27>(令和4年1月)

<草紙27> 「町と猿」(富南辛夷句会便り)

 週に2回は句会場の近くの上滝郵便局に出かける。投句ハガキの投函のほか、こまごまとした用事のためだ。その郵便局の隣に、いつも手入れの行き届いている野菜畑がある。郵便局のついでにこの畑の野菜の成長や実り具合を楽しみにしている。つい最近のことだが、畑に動くものがいた。猿だ。悪びれる訳でもなく、雪を掘り、取り残した根菜を食べている。雪の下で甘さを増した根菜は美味に違いない。郵便局は集配業務で結構な人の出入りがあるが、猿は怖れることもなく、郵便局員も猿を構わず、不思議な落ち着いた空気が漂っている。今日は、駅前通りをゆったりと横切る十数頭の群れに出会った。里の畑の美味を覚えた猿は手強い。春には猿避けネットをかけるのだろうかと勝手に気遣うこのごろだ。

 さて、1月の句会(1/28)だが、季語は、雪搔、雪卸(雪下し)、息白し、極月、鍋焼、寒雀、冬鳥、手袋などの冬の季語に加えて、初詣、餅花、初日記などの新年の季語があった。この冬は大雪が2度もあったので旅吟の句はなかった。今回は、辛夷2月号に掲載の「学びのページ」の「作句上のポイント」を意識して推敲を行った。そのポイントは、①季語の説明にならないこと、②出来事などの報告にならないこと、③社会通念を述べないこと、④日常の中の一コマを具体的に描くことが肝要である、という4点だ。今回の句会は、推敲の拠り所を俳誌『辛夷』で目にすることができ、自分の句と重ねてみることで客観的な推敲ができたと思われる。

 投句のあった季語に合わせて前田普羅の句を一句。

雪卸し能登見ゆるまで上りけり(「普羅句集」所収)

                 康裕