五岳集句抄
八十路には八十路の若さ柿を捥ぐ | 今 村 良 靖 |
報恩の賛歌に散れり金木犀 | 但 田 長 穂 |
大枯野千体地蔵息ひそむ | 藤 美 紀 |
沿線の生活灯して柿の秋 | 野 中 多佳子 |
女児生れてトントン葱の小口切り | 荒 田 眞智子 |
追肥して土寄せをして日短か | 秋 葉 晴 耕 |
雑踏を来て秋寂の黒不動 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
名刹のしじまを巡り花八ツ手 | 青 木 久仁女 |
秋天に人の影あり水底に | 太 田 硯 星 |
きらきらと降る山の雨牧を閉づ | 山 元 誠 |
見つからぬ錠剤一つそぞろ寒 | 成 重 佐伊子 |
糸瓜あふぎ糸瓜の種を約束す | 菅 野 桂 子 |
すつくりと立つ茶柱や冬に入る | 脇 坂 琉美子 |
電停へこぼるる灯り冬めきぬ | 明 官 雅 子 |
母入れしわがポケットの蜜柑むく | 二 俣 れい子 |
高林集句抄
主宰鑑賞
能登半島先端部の珠洲岬、 聞くだに旅情を掻き立てる語感である。 その珠洲岬へと渡り鳥の視線で迫っている。 鳥瞰図は昔風に言えば鳥目絵、 葛飾北斎が現代人も驚くほどの鳥の目線での風景画を遺す。 上田五千石は渡り鳥の句で 「みるみるわれの小さくなり」 と詠んでいるが、 その手法とは異なった味わいがある。 渡り鳥になった気分での臨場感を楽しむ。
主宰鑑賞
昭和48年没の5代目古今亭志ん生の人気は凄かった。 「志ん生文治」 と並ぶから桂文治は昭和53年没の9代目か、10代目も人気があった。 いずれも落語名作選の映像などで今も聞くことができる。「床に聞く」とあるから気に掛かるが、夜長を名人の語りを堪能。 気分も一新、 生気を取り戻されたか。
衆山皆響句抄
主宰鑑賞
普通は動詞の多用をよしとしないが、 鬼が 「覗き」 「揺らす」 と続いて緊張感を高める効果があろう。 町中などの可愛い秋桜ではなさそう。 広野に咲く大人の丈も超えた広がりを想う。 和やかな 「隠れん坊」 と言うより、 どこか凄みを帯びた読後感である。 すなわち鬼も単なる鬼の役の子ではなくて本物の鬼の子といった不思議な世界へと誘う雰囲気もなしとせず。
看板の変らぬ手書文化祭 | 片 山 敦 至 |
オンライン授業のままに冬立ちぬ | 仕 切 義 宣 |
若き日の歌口ずさみ秋の暮 | 大上戸 将 晃 |
いぼむしりふはりと落つる夜具の上 | 村 田 あさ女 |
ピアノ曲幽か暮秋の検査室 | 東 山 美智子 |
夕蜻蛉群れて昔の空ありぬ | 馬 瀬 和 子 |
間違ひの電話に覚めて夜の長し | 坂 本 昌 恵 |
切り立てと思ふ菊の香花売場 | 桑 田 ふみ子 |
ひとつ足す母の集めしどんぐりに | 鍋 田 恭 子 |
雪吊に合はせ草取たのみけり | 東 堂 圭 子 |
置炬燵柱時計の見ゆる場所 | 砂 田 春 汀 |
真つ直ぐに隣り村まで草紅葉 | 小 西 と み |
紅葉散り隣りの窓の明りかな | 今 井 秀 昭 |
長塀の途切れし先は芋の秋 | 川 田 五 市 |
友帰るあの枝の柿予約して | 今 井 久美子 |
コロナ禍の旅の屋台や卵酒 | 髙 田 賴 通 |
独り来れば一人を容るる芒原 | 久 光 明 |