五岳集句抄
| 不揃ひな古書を並べて漱石忌 | 藤 美 紀 |
| 松島湾小さき島々指呼の秋 | 野 中 多佳子 |
| 肩巾は夫の半分日向ぼこ | 荒 田 眞智子 |
| をちこちに獣の猛る神無月 | 秋 葉 晴 耕 |
| 何もなき手をポケットに銀杏散る | 浅 野 義 信 |
| 跡継ぎの話も交へ菊師どち | 太 田 硯 星 |
| 中山道栗を拾ひし朝かな | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
| 山彩る弾みで飛ばす寺の磴 | 青 木 久仁女 |
| 左折して変はる街路樹秋闌けて | 菅 野 桂 子 |
| 仏事ひとつ果つ小春日を使ひきり | 脇 坂 琉美子 |
| こほろぎや置きつぱなしの空気入れ | 明 官 雅 子 |
| 応へなきチャイムの合間鵙の声 | 二 俣 れい子 |
| 躓くは独活の刈株落葉掻く | 岡 田 康 裕 |
| 黒土にこぼるる雨の金木犀 | 北 見 美智子 |
| 皀莢を拾ひ集めて当てもなし | 野 村 邦 翠 |
| きつねから始まる影絵白障子 | 杉 本 恵 子 |
| 庚申さん頬笑むばかり秋の声 | 石 黒 順 子 |
| 秋の暮見えぬ白球子ら追うて | 中 島 平 太 |
| 秋闌けて絹裁つ鋏重しとも | 浅 尾 京 子 |
| 報恩講昼はいとこ煮三日目も | 大 谷 こうき |
| 枝折り戸の朽ちも紛れて実千両 | 寺 田 嶺 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
亀石と名のあるものは各地にあろうが、やはり明日香村の飛鳥時代のものを思う。幅と高さが二メートル、長さ四メートルぐらいか。愛嬌のある顔つきで首は見えず体形は蛙に似る。そんな亀石の首も伸びそうな、とは何と誇張表現であることか。古代の歴史ロマンもあろうが、絶好の秋日和が然(しか)らしめた発想の柔軟さもあろう。季語「秋日和」の面目躍如。
<主宰鑑賞>
「通院の乗換へも旅」に注目する。仮に一病息災の心配のない通院だとしても虚を衝かれる読後感である。乗換えが幾つか方法があり、その日の天候や気分で選んでいる、ということもあろうか。そんな楽しみも寒くなるとお決まりのルートとなるか。そんなことを思わせる結びの「冬近し」である。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
熊の文字はなくとも鈴が熊鈴なるは言わずもがな。秋晴の朝ならば新鮮な空気を吸って立山連峰の稜線を眺めながらのごみ出しの筈である。そんなささやかな幸せも叶わず、熊の出没に警戒しなければならない日々が続く。四囲へ、しっかりと「鈴の音届け」との切実な思いを共感する。「緊急銃猟/クマ被害」が新語・流行語大賞の十語の中に入る時代である。
| 錦木の匂へるなかを近道す | 鍋 田 恭 子 |
| 手を抜かず頑張り過ぎず落葉掃く | 那 須 美 言 |
| 手作りの味噌の香りや朝の膳 | 佐 渡 稚 春 |
| いそいそと今日は受診日小六月 | あらた あきら |
| 箪笥の中かき回したる冬支度 | 永 野 睦 子 |
| 冬日差す畑の作物見まはりて | 小 路 美千代 |
| 掃かずにはをれず落葉の濡れぬまに | 今 堀 富佐子 |
| 小春日や逝きたる友の顔浮かぶ | 石 﨑 和 男 |
| 静けさを待ちて落つるや銀杏の実 | 今 井 久美子 |
| 冬ざるる厨の音のくぐもりて | 宮 田 衛 |
| 銀杏散る石仏眠くなりし頃 | 水 戸 華 代 |
| 手術後のベッドでひとりワールド戦 | 立 花 千 鶴 |
| 秋明菊再び匂ふ供花となり | 木 谷 美 以 |
| 寝る前に明日の予定生姜酒 | 野 村 奈 未 |
| 日だまりの刻に凭れて返り花 | 長 山 孝 文 |
| 万年青の実形をなして色を待つ | 岩 崎 耕 潤 |
| ランナーと心通はす紅葉濃し | 島 倉 英 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。