五岳集句抄
大島や深山つつじと御神火と | 藤 美 紀 |
外苑の水昏れゆけり花菖蒲 | 野 中 多佳子 |
しやがむ子に並ぶペンギン夏はじめ | 荒 田 眞智子 |
水槽に水を足しやる暑さかな | 秋 葉 晴 耕 |
弓絞る青年の胸新樹光 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
三つ買ひ一つ供へて桜餅 | 青 木 久仁女 |
花の名を当て合ふ二人園うらら | 太 田 硯 星 |
春暁の水ほとばしる峡の道 | 山 元 誠 |
家族葬の窓を叩くや若葉雨 | 成 重 佐伊子 |
植物園奥へ奥へと春惜しむ | 菅 野 桂 子 |
納骨の朝鈴蘭の馥郁と | 脇 坂 琉美子 |
ご機嫌の息まんまるに紙風船 | 明 官 雅 子 |
就活の子の黒髪や青嵐 | 二 俣 れい子 |
大濠の己が影へと新樹伸ぶ | 岡 田 康 裕 |
蓬餅色濃きものを選びけり | 小 澤 美 子 |
木漏れ日の右往左往の青嵐 | 北 見 美智子 |
石楠花の下枝の花に屈みもし | 野 村 邦 翠 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
日本だけでも四千種以上の蜂が居ると言うから驚く。しかも刺さない方が多いとあって更に驚く。やはり雀蜂の恐怖が蜂というものを必要以上に悪者にしているのであろう。それを理解していた筈なのに思わず「打ちたる」という反応、そして「出せば良きものを」との後悔。蜂に対して冷静では居られない現実を描く。蜂に刺されることも少なからず共感も。
<主宰鑑賞>
五月の高岡古城公園吟行会での作。雨後の森と濠が醸し出す雰囲気は、一期一会の古城の顔を見せてくれた。冒頭の「青歯朶や」からも、そうした空気感が伝わろうか。一歩一歩「濡るる石段踏みしめて」巡る箇所は、人気も少なく青鷺なども居そうな水辺と茂みかと。踏みしめるごとに意欲が湧いて。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
表紙絵やカットでもお馴染みの棟方志功の生誕百二十年企画展が富山県美術館で三月から五月にかけて開催された。板画、油彩画、障壁画、書など百点ほどを堪能しながら作品世界の奥を進めば「春深し」の季語も気分に適おうか。そして何よりも「志功に見られつつ」が棟方の創作のこころに触れているようで素晴らしいこと。生きて居る棟方と会うごとし。
荷風忌のカツ丼すこし甘めにす | 漆 間 真由美 |
猫のあと尉鶲行く塀の春 | 山 腰 美佐子 |
まづ登り天守閣より花見かな | 吉 田 秀 子 |
怠け癖払ひ二千歩おぼろの夜 | 小 路 美千代 |
母の日を励ましに来て励まされ | 般 林 雅 子 |
げんげ田の風を吸ひ寄せ新幹線 | 川 田 五 市 |
用水路に鉄路のひびき野蕗刈る | 片 山 敦 至 |
色彩の行進つづくチューリップ | 中 村 伸 子 |
草臥れし太極拳靴四月尽 | 柳 川 ひとみ |
囀や改札口の待ち合はせ | 足 立 美也子 |
畑を打つ手に息かけて腰入れて | 寺 崎 和 美 |
万緑に身の透くほどに立ちつくす | 馬 瀬 和 子 |
花吹雪触るる晩鐘鳴りさうに | 山 森 利 平 |
今生の一刻青き踏みにけり | くろせ 行 雲 |
花吹雪その只中に身じろげず | 多 賀 紀代子 |
大南風に押され引かれて奥日光 | 小坂井 左千雄 |
春の夢うれし涙で目覚めかな | 廣 瀬 倖 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。