五岳集句抄
ひと跳びの流れに確と水草生ふ | 今 村 良 靖 |
落つばき垂水の崖の泣き羅漢 | 藤 美 紀 |
身の内の箍のゆるみも花の昼 | 野 中 多佳子 |
昨日今日明日も晴天さくらかな | 荒 田 眞智子 |
膨らみし畦踏み固め春惜しむ | 秋 葉 晴 耕 |
花冷の喪服を吊す長押かな | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
妹と姉欲しきかな桃の花 | 青 木 久仁女 |
花の雲筵を踏んでしまひけり | 太 田 硯 星 |
暁の榛名囀りとめどなく | 山 元 誠 |
誕生日先づは花菜をゆでておく | 成 重 佐伊子 |
立山ヶ根に長靴愉し蕗のたう | 菅 野 桂 子 |
つつかけの足こそばゆし花なづな | 脇 坂 琉美子 |
清明やガラス地蔵へ水をかけ | 明 官 雅 子 |
月おぼろ問はず語りに歩を合はす | 二 俣 れい子 |
耕耘機始動一発春日燦 | 岡 田 康 裕 |
いくたびも腰をなだめて春の雲 | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
樹齢二千年から千年という日本三大桜の山高神代桜(山梨)や根尾谷淡墨桜(岐阜)、三春滝桜(福島)とまでは行かずとも各地に見応えがある老桜がある。掲句では見学を阻むような「道の崩れ」が反って老桜への思いを募らせる。「一歩づつ」危険と隣合せで視野に入っている桜に迫る。それは自らの意志にして、また老桜の精に引かれて行くようにも思われる。
<主宰鑑賞>
落葉して奥の方まで見通せる状態が疎林である。そんな林はどこか哀れで滑稽な感もあるが、それはそれで季節感を味わえる。が、いつの間にか囀に耳を傾けている頃になると疎林が緑の森へと変りつつあることに気付くのである。芭蕉の言葉「乾坤の変は風雅の種なり」を思い起こすような一句。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
満開の花に嵐が来れば花も終り。親鸞聖人の「明日ありと思ふ心のあだ桜夜半に嵐の吹かぬものかは」が浮かぶ。「風を治めて呉れにけり」ならぬ「暮れにけり」。風を治めたのは満開の花とすると荷が重そうである。やはり天文を司る神か。そして静かに今日と言う日が暮れるのである。主体が複数ある芭蕉の「田一枚植ゑて立ち去る柳かな」に似た読後感。
箱に苺労ふ言葉なけれども | 山 腰 美佐子 |
呼ぶ仕種に耕耘機止め早一時 | 武 内 稔 |
夕日背に春耕の夫帰り来る | 正 水 多嘉子 |
映画館出でて日永と思ひけり | 斉 藤 由美子 |
歌舞伎座へ急ぐ裏道春の雨 | 倉 島 三惠子 |
蕗味噌を少し甘めに子に持たす | 民 谷 ふみ子 |
新聞の切り抜きを綴づ夕長し | 久 郷 眞知子 |
年ごとに春の喜び越に嫁し | 多 賀 紀代子 |
春を詠む何処か似てをり去年の句に | 窪 田 悦 子 |
車から満月のぼる春の宵 | 中 川 正 次 |
指栞して聞き入りし春時雨 | 八 田 幸 子 |
花衣整へ遺影に見てもらふ | 砂 田 春 汀 |
重たげなリュックの跳ねて青き踏む | 般 林 雅 子 |
野遊びや薄手の上着ひるがへし | 石 﨑 和 男 |
八十路なる力試しに耕せり | 平 木 丈 子 |
亡夫愛でし野草やひそと春の野辺 | 神 田 雅 子 |
すれ違ふ犬と目の合ふ春隣 | 入 江 節 子 |