辛夷草紙<34>(令和4年6月)

<草紙34>「山藤」(富南辛夷句会便り)

 立山山麓集落は、5月の連休のころ、至る所に山藤が垂れる。句会活動拠点の上滝から常願寺川を遡る道筋には山藤が多い。中でも「岡田」集落入口にある大きな杉に、蔓を存分に伸ばして咲き誇る山藤は見事だ。集落の案内標識にも似た存在だ。この山藤を毎年楽しみにしていたのが、句会仲間の故山元飛鳥氏だ。

   大杉の天辺どこもここも藤    飛 鳥

 突然の逝去で残念なことであったが、今年も山藤は見事だったと伝えたい。この山藤が咲く頃、集落では、畑に種蒔きや野菜苗を植え付ける。最近では猿よけネットを張るのも大切な仕事だ。飛鳥氏の好きだった山里は、自然も人々も動き出すのである。

 さて、5月の句会(5/27)だが、季語は、雀の子、木の根明く、たんぽぽ、雉、種蒔、山独活、囀、蛙、朝焼、冷奴、帰省など。特に、たんぽぽや雉の句が複数あった。いずれも休耕田であるが故の情景であり、詩情ばかりに浸れないものがあるが、休耕田に咲き溢れるたんぽぽや、休耕田を住み処とする雉の鳴き声にすっかり馴染んだ句など、明るい句だったのが嬉しかった。

 投句のあった季語に合わせて前田普羅の句を一句。

   雉子鳴くや大いなる空明けんとす   (古春亭句集所収)   

康裕