五岳集句抄
凍て滝に挑む男の赤ヤッケ | 今 村 良 靖 |
木々芽吹く神事行ふ巫女の列 | 藤 美 紀 |
華やぎて海に消えゆく春の雪 | 野 中 多佳子 |
年忘れダンスフロアの靴の傷 | 荒 田 眞智子 |
下萌に新たな杭の打ち込まる | 秋 葉 晴 耕 |
海鼠突く海王丸の影の中 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
移りゆく名残りのひとつ火消壺 | 青 木 久仁女 |
納車遅しカタログ見飽き春を待つ | 太 田 硯 星 |
初夢と知らず雪壁攀ぢ登る | 山 元 誠 |
福豆を入れて一人の五目飯 | 成 重 佐伊子 |
冬うらら日ごと巴布(ぱっぷ)に膝照つて | 菅 野 桂 子 |
湯豆腐やほつりほつりと子等の事 | 脇 坂 琉美子 |
窓開けて春の雪でも入れようか | 明 官 雅 子 |
自販機の明りが寄る辺寒の駅 | 二 俣 れい子 |
長靴の雪を確かめチャイム押す | 岡 田 康 裕 |
飛ばされし冬帽杖で手繰り寄せ | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
新年を迎えて身も心も一新する「初風呂」には祝いや祈りの気持も籠ろう。そんな前向きな思考とは裏腹に昔の思い出も蘇ったりする「初風呂」でもある。遠き記憶とは一抹の哀愁が漂うが、愛情を肌で感じた「父の腕」の記憶には曰く言い難い安らぎがあろうか。神仏のご加護をも思わせる優しさと逞しさに満ちた「父の腕」の皮膚感覚を想う。思わず長湯。
<主宰鑑賞>
雛人形の句と言えば松本たかしの「仕る手に笛もなし古雛」が好きである。まさに徒手空拳の空(むな)しさから逆に華やかな雛人形の在り様を強調するからである。が、さらにその上を行く驚きが美智子さんの「やはらかな風抱かせて」である。三人官女や五人囃子に随身など風の抱き方が異なっていよう。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
「手を濡らし」からは野中多佳子さんの句「母の手のいつも濡れゐし花ぐもり」を思う。主婦業に勤しむ女性像が「花ぐもり」の季語を得て美しく描かれた。京子さんの句は自分自身の「手を濡らし」であり、初夢の中にまで自らの日常生活を俳味も豊かに活写している。歩んで来た確かな半生があろう。そして愛(かな)しいまでの女の業を思わずには居られない。
雪解けて点字ブロック割れしまま | 永 井 淳 子 |
おでん煮てワクチン接種三度目へ | 平 木 美枝子 |
青年団のかつての部屋に初句会 | 今 井 久美子 |
はだれ野や土のにほひに歩を重ね | 宮 田 衛 |
風音ををりをり挟み笹子鳴く | 金 谷 美 子 |
春満月伝へて去りぬセールスマン | 山 森 美津子 |
冷え性にとむじなの肉の寒見舞 | 廣 田 道 子 |
選ばれし如く野にあり梅咲きぬ | 紺 谷 郁 子 |
掻揚げのさくりと口へ春近し | 高 橋 よし江 |
人ごころ探りあぐねて寒椿 | 田 村 ゆり子 |
蕗の薹土の匂ひと地の湿り | 高 岡 佳 子 |
紅梅や仏の夫の明日米寿 | 坂 本 昌 恵 |
千曲川寒さ残して越後へと | 大 池 國 介 |
暗がりの戸が呼ぶごとく雪の声 | 石 黒 忠 三 |
次次に家電壊れし余寒かな | 川 渕 田鶴子 |
京町家寒念仏の響きあり | 船 見 慧 子 |
暮早し留守を灯して出掛けたり | 宮 川 貴美子 |