辛夷草紙<30>(令和4年4月)

<草紙30> 「江ざらえ」(富南辛夷句会便り)

 用水は、水田への灌漑(かんがい)という本来の利用にとどまらず、流雪用、消雪用、宅地排水用など地域の生活用水とも言える役割を持っている。この用水の機能維持のために「江ざらえ」がある。毎年春の雪解けを待ち、3月末から4月初旬に、用水の底にたまった土砂の除去や用水にはみ出している周辺の草の除去などを行っている。勢いよく流れ出した用水の水音は、確かな春の訪れと田起しの近いことを感じさせる。

 私の集落の話で恐縮だが、ここ一、二年「江ざらえ」への参加率が向上し、女性の参加が増えてきた。以前は「用水は農業用だから、農家の人がやれば良い」と考える人が多かったように思われ、参加率が低かったように思う。最近の地球温暖化問題などから「環境」を考える一環として「江ざらえ」を捉えて参加者が増えてきたのだろう。

 さて、3月の句会(3/25)だが、雪解、残雪、春の泥、啓蟄、蛇穴を出づ、囀、梅、山茱萸、蕗の薹、木の芽時、卒業、彼岸と春満載。印象的だったのは、「蛇穴を出づ」の句。聞けば、屋敷の大欅の根元に蛇の巣があり、のっそりと出てきた屋敷蛇が風を呼んだ句。屋敷蛇に対する作者の優しい眼差しが窺えた。俳誌『辛夷』掲載を楽しみにお待ちいただきたい。

 投句のあった季語に合わせて前田普羅の句を一句。

紫に鳶の影ゆき雪解風

康裕