前田普羅<13>(2021年11月)

普羅13 前田普羅の「地貌」の句① >   

 今回からしばらく、主宰中坪達哉の著書『前田普羅その求道の詩魂』より、普羅の「地貌」の句を紹介します。まずは、富山県人の心のよりどころ、立山連峰の句を見てみましょう。

(抜粋 p42)  立山のかぶさる町や水を打つ
 大正13年の富山市内中心部から立山連峰を仰いでの一句。普羅はこの年の5月に、当時は一般紙であった報知新聞の富山支局長として横浜から富山へ移住している。赴任の下相談には5分もかからずに快諾した、というほどに山岳好きな普羅であった。赴任してからは日々仰いだ立山の嶺々であった。「立山のかぶさる町」が富山の町の特徴を見事に言い当てていよう。眼前の光景を瞬時に描きとった、その大胆な把握力には驚くばかりである。後年、「地貌」論を唱える普羅だが、早い段階から句作では実践しているといえる。
 「立山のかぶさる町や」までは直ぐに出来たが、下五の結びには苦労している。その作句過程は詳らかにされている。下五を十数日は考えて「の日除かな」とするが、安定がないとして、また歩いてみて「水を打つ」と直す。が、不安が残り二三ヶ月はそのままにして置いたという。「水を打つ」という人間の小さな営みと、かぶさりやまぬ山岳の雄々しさとの対比、それが対立ではなくて統合した富山の風土を詠むことで、古来より立山を神の山として仰いできた越中人の魂に触れているように思う。『普羅句集』所収。

(抜粋 p50)  立山に初雪降れり稲を刈る
 「初雪」と「稲を刈る」との季重なりとなっているが、概して普羅の作品には季重なりが多い。自らの立つところの歴史や地質、気象などを究めて風土に根ざした作句をなさんとした普羅には、現実の事象が本然として季重なりであるのならば無理に季語を一つにすることもない、という思いがあったに違いない。
 富山平野から仰ぎ見る立山連峰、その三千メートル級の峰々を染めて初雪が降ったのである。その白々とした連山を背景にして、否、背負うような格好で人々が稲刈り作業に精を出しているのだ。「初雪降れり」「稲を刈る」と大きく二度にわたって切れながらも、調べは淀むことなく一句を全うして、大自然とそこに織り成す人々の営みを躍動的に描いている。何ら主観めいた措辞はないが、「初雪降れり」が醸し出す緊張感は稲刈り作業を急かせるのみならず、迫りたる冬将軍にも備える人々の秘めた覚悟をも思わせる。
 普羅は後年、地貌論、すなわちその土地独自の風土や歴史が表れた作句を標榜するが、その実践を早々と見るような一句である。大正14年作、『普羅句集』所収。

 普羅の「地貌」の句は、山や川、海にも空にもわたって詠まれています。引き続き、それらを主宰中坪の解説で紹介したいと思います。

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