五岳集句抄
タクシーに合図の腕を秋の風 | 今 村 良 靖 |
送られて来し大梨の座りよし | 但 田 長 穂 |
月代や開演一笛薪能 | 藤 美 紀 |
汕頭(スワトウ)のハンカチ膝を正したり | 野 中 多佳子 |
絵日傘の影の濃淡交差点 | 荒 田 眞智子 |
溝萩をお裾分けとす無縁墓碑 | 秋 葉 晴 耕 |
立山の雲積む日なり松手入 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
寺までの近道畦の曼殊沙華 | 青 木 久仁女 |
光たる秋果を配る地鎮祭 | 太 田 硯 星 |
立山ヶ根で何を語らむ盆の月 | 山 元 誠 |
雨後の草に踵埋めて立秋忌 | 成 重 佐伊子 |
コロナ禍を糸瓜育ててつつがなし | 菅 野 桂 子 |
ペダル踏む肩で稲の香漕ぎ分けて | 脇 坂 琉美子 |
朝顔や父は碁石を拭き始む | 明 官 雅 子 |
秋の雨はつと明るき皿小鉢 | 二 俣 れい子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
さりげなく詠まれているが、確かな美意識が感じられる。それは結びの「見届けて」から分かる。外出からの帰路か、あるいは畑仕事の仕舞際でその身は夕焼に染まっていたのである。さぞ荘厳な光景であったかと。そして西方浄土を想わせる鮮やかな茜色を「風呂の鏡に見届けて」に美の追求者としての喜びもあろう。鏡面の夕焼の茜色が次第に褪せ行く。
<主宰鑑賞>
「花と蝶」ならぬ「供華に秋の蝶」である。自ずと墓地が浮かぶ。遠くから「吹かれ来て」そして選りに選って「供華にやすらふ」とは可笑しさもあり、美しさの中にそこはかとなく哀れさが漂う。蝶も「秋の蝶」であって趣も深い。生きとし生ける物の、その命の在り様に思いをめぐらすのである。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
「窓の月」とは窓に差し込む月影すなわち月の光、また窓から眺める月を言う。作者の京子さんは窓から月を眺め、そして病床に臥す友には月の光が優しく差しているか。闘病生活の友の一日を思い遣る、そんな思いが溢れた「友は寝たるか」の表現であろう。人は月に祈り、願い事をしてきた。友の一日も早い恢復を祈る一句であることは言うまでもない。
帰燕後の電線太く影落とす | 金 山 千 鳥 |
虫時雨書を閉ぢたれば夜も更けて | 永 井 宏 子 |
家中(いえじゅう)に玩具散らばる残暑かな | 中 村 伸 子 |
ひとり居の夜食絵皿を楽しみて | 高 橋 よし江 |
秋高しオール漕ぐ手の逞しき | 粟 田 房 穂 |
鶏頭の増えたる庭が動き出す | 佐 渡 稚 春 |
スニーカーに朝露法起寺法輪寺 | あらた あきら |
新涼の未だ薄物身につけて | 浜 井 さなえ |
花立に水足せば来し秋の蝶 | 中 林 文 夫 |
湧水を秋のひかりを汲むごとく | 山 藤 登 |
トランポリン跳びたる高さ雲の峯 | 松 原 暢 子 |
手術日や銀河の中に身をあづけ | 宮 浦 純 子 |
秋灯下鶴と化したる薬包紙 | 八 田 幸 子 |
何告ぐや一発花火秋日和 | 北 島 ふ み |
烏瓜剪らるる時を垂れ競ふ | 川 田 五 市 |
秋牡丹遅れおくれの里墓参 | 水 戸 華 代 |
蝉の羽幾つかを踏み小径ゆく | 堺 茂 樹 |